読書タイム
No.10
日本の電機産業再編へのシナリオ

書名 :日本の電機産業再編へのシナリオ
    グローバルトップワンへの道
著者 :佐藤文昭(さとうふみあき)
出版社:かんき出版
発行日:<第1刷>2006年8月7日
価格 :1800円+消費税
頁数 :323頁


【紹介文】
 本書はまず冒頭で、数ヶ月後に訪れる重大な転機について警告している。それは昨年(06年5月)に施行された会社法により、企業合併・買収に関する新しい規程が
生まれた事に由来する。この法律によって例えば企業の三角合併により、日本の大手電機が
外国企業の子会社化される危険性があると言う。(三角合併とは、外国企業の日本子会社が
日本の他の会社と株式交換により合併する際に、外国親会社の株式を対価に用いる事で、
日本子会社を外国企業の子会社に出来る仕組みの事である。)その理由は、大手電機の
収益性が低いために株式の時価総額が低く、買収のターゲットになりやすいからと
説明されている。この会社法の施行は今年2007年の5月1日となっている。
 本書の論旨は明快である。収益性の低さ→株式時価総額の下落→買収と言う図式であれば、
収益性を回復する事でこれを回避出来ると言うものである。そのためにどうするか?
この問いに対する本書の解答が、副題である「グローバルトップワンへの道」である。
グローバルトップワンとは、世界有数の規模や資金投資力を持てる様に、特定分野に
絞り込んだ事業部門を持つ企業の事を言う。これまで日本の電機産業は、総合電機メーカー
として手広く展開してきた。この「横型コングロマリット構造」のままでは、ひとつひとつ
の事業部門の規模が小さいため、各分野における世界のトップ企業とは対等に闘えないから、
複数の企業の同種分野を統合する事で、規模の拡大を図る必要があると言うのである。
 これまで国内市場の中で発展してきた日本の電機業界も、今やグローバル化の波を受けて、
世界市場を中心に展開する時代になっている。その世界市場もBRICsの台頭などに
よって急速に拡大している。市場の規模が拡大すれば、生存に適した企業規模も拡大する。
本書の着想の背景にあるのは、古典マルクス主義で言うところの資本集中の法則なのだろう。
 残念ながら本書を読んでも電機労働者の明るい未来は見えてこない。気をつけなくては
ならないのは、例え企業がグローバルトップワン化に成功しても、それが直ちに働く我々の
未来の安泰には結びつかない事だと思う。
 では労組の役割はどうだろうか。電機産業が業種別に統合再編成する流れであれば、
従来の企業内労組とは違う、業種単位での水平的な連携が重要になってくると思われる。
このような発想は、例えば「職種グループごとの労働者の結集」として、「リストラとワーク
シェアリング(熊沢誠著、岩波新書、149頁)」にも見られる。
 おそらく本書は、労働運動に携わる者にとってあまり読みたくない部類に属するに
違いないと思う。それは詰まるところ本書が日の丸連合の勝ち残り指南書であり、
どこかコンピュータ・シミュレーションゲームの必勝本に似ているからなのだろう。
業界を俯瞰する側からの視点であり、我々は俯瞰される側の渦中に居る。
それでも敢えてこの本を紹介するのは、我々の電機業界を取り巻く環境や、
経営側の発想を理解する事もまた大切と思うからである。



【内容紹介】

第一章 M&A時代突入で激変する日本の電機産業
第二章 大手電機の低い「時価総額」を狙う外国資本
第三章 業績の低下が止まらない日本の大手電機
第四章 グローバル・トップワンへの道
第五章 2010年に向けた大手電機のあるべき姿
終章  今が2010年へ向けたラストチャンス


【著者紹介】

佐藤文昭(さとうふみあき)
2001年より日経アナリストランキング「企業総合部門」で6年連続1位。
米国Institutional Investorランキング(産業用電子機器)で、
2001年より4年連続の1位。
セミマクロの視点から日本のハイテク業界全般を分析し、米国、アジアの企業
・業界についての幅広い調査も高く評価されている。(本書紹介文より)

 

NEC関連労働者ネットワーク

前ページへ