読書タイム
No.12
若者はなぜ3年で辞めるのか?

書名 :若者はなぜ3年で辞めるのか?
    年功序列が奪う日本の未来
著者 :城繁幸
出版社:株式会社 光文社(光文社新書)
発行日:<第1刷>2006年9月20日
    <第4刷>2006年10月20日
価格 :700円+消費税
頁数 :231頁


【紹介文】
3年前に大ブレイクした『内側から見た富士通「成果主義の崩壊」』の著者、
城繁幸氏が贈る近著。若者の就職難、非正規雇用化が進むいま、正社員になれる若者は
運が良いと言えそうだが、現実には大卒新人の1/3が3年に以内に辞めていく。
その原因が「年功序列制度」にあると著者は言う。
のみならず、年功序列(雇用における格差)に象徴される世代間の格差は、
年金問題、国債の問題にも現れ、ひいては少子化を加速させ、
日本社会の存続をも危うくしていると説く。
30代前半の若手研究者が、エネルギッシュにストレートな議論を展開する。

【内容紹介】
第1章 若者はなぜ3年で辞めるのか?
第2章 やる気を失った30代社員たち
第3章 若者にツケを回す国
第4章 年功序列の光と影
第5章 日本人はなぜ年功序列を好むのか?
第6章 「働く理由」を取り戻す

まず、本書のタイトルである「若者はなぜ3年で辞めるのか?」と言う問いに対する
著者の見解は、第1章であらすじが語られている。

まず表面的な理由として、概略次の様に説明している。
「バブルが崩壊した90年代の後半から、企業は採用数を大幅に縮小せざるを得なくなり、
その結果それまでの一括採用を改め、組織のコアとなれる能力と、
一定の専門性を持った人材を求めて厳選採用をするようになった。
その様な雇用環境に適応するために、学生は就職前から仕事に対する明確なビジョンを持ち、
専門的な能力を磨くようになったが、反面、いざ就職して実際に与えられる仕事は
単調な下積みが多く、そのギャップによるストレスが彼らを退職に追い込んでいる。」
しかし、それだけでは無いと著者は言う。
その背景には、より本質的な問題=人事制度による問題があると指摘する。

その人事制度の問題とは年功序列制度である。
年功序列とは、年齢によって序列が上がり、序列が上がることで賃金も上がる仕組みである。
この制度がまともに機能する為には、会社の業績が右肩上がりでなくてはならない。
つまり会社の規模が拡大しない限りポストは増えず、
ポストが増えなければ出世からあふれる人が出てくるからである。
そして低成長時代の今、限られたポストの前には3〜40代の行列が出来ている。
年功序列では、序列下位に居る大かたの若者は「下働き」であり、
やりがいや裁量権のある仕事は殆ど回ってこない。
加えて、近年の人件費抑制により定期昇給さえも無くなりつつある。
つまり今の若者は、下手をすれば退職まで、安い賃金でつまらない仕事に従事する可能性がある。
こうした年功序列制度の弊害が、若者をして”やってられない”気持ちにさせると説明している。

では成果主義はどうなっているのだろうか。
多くの日本企業は、既に90年代から成果主義の導入を試みてきた。
著者はこれを3段階に分けて捉えている。
第1ステージは90年代における導入期であり、
その目的は、序列の末端にいる一般社員の選別による人件費の圧縮であった。
2000年からの第2ステージでは組織構造や管理職も対象になったが、
序列が上がらなければ給料も上がらない仕組みは温存されており、
キャリアパスが1本しかない点で、これまでの年功序列と本質的に変わらないとしている。
そして成果主義が機能するためには”キャリアの複線化”が必要と説く。
それは例えば、高い権限を持つマネージャーと、高い専門性を持つプレーヤーとで
それぞれ別のステップアップの道を造ると言ったことであり、
これを著者は第3ステージと捉えている。
第3ステージは未だ日本企業への導入例が殆ど無いらしく、
したがって日本企業の多くは年功序列のままであると言うのが著者の見解である。

第3章以降は、議論の範囲が会社の枠を越えて社会全体へと広がる。
会社は採用減と非正規雇用の拡大によって進む組織の老化、
その老化する組織で下働きに奔走する若者と、その帰結としての少子化、
そして少子化で急速に進む日本の国全体の老化、
老化によって崩壊した年金のシステムや、多額の国債の存在など。
ただ、これら社会全体の問題については、他に優れた著作が多くあると思われるので、
このコーナーで別途紹介して行きたいと思う。


【感想】
まず補足だが、著者のスタンスとしては、必ずしも年功序列=悪、成果主義=善と
決めている訳ではなく、企業によって向き不向きがある、つまり長期の能力蓄積が
重要な業種もあることを認めた上で、上記の議論を展開している事を付け加えたい。

労働問題に関心のある者の多くは成果主義に懐疑的だろうと思うが、
では成果主義でなければ、年功序列なら良いのかについても、整理して考える必要があると思う。
本書の価値の一つは、年功序列の正体を「ねずみ講」に例え、
若者にしわ寄せする矛盾先送りのシステムである事を喝破している点にあると思う。

ただ、全体として読むと、若者対老人という世代間の対立の図式が
強調され過ぎている様にも受け取れる。
確かに年金でも就職でも賃金でも、若い世代が割を食っている面は大いにあると思う。
しかし例えば、
「民間企業が人件費に回せる原資は有限であり、そういう意味では、
最後は結局パイの奪い合いとなるのはしょがない面もある。(本書100頁)」
とあっさり言ってのけるのはどうだろうか。
人件費のパイは、企業の内部留保や設備投資、株主への配当などとも奪い合いなのであり、
パイの拡大の余地が本当に無いかどうかは、常にチェックされなくてはならない筈だが、
この点には何も触れていないのが気になる。
元来、出来るだけ優秀な労働力を長時間、かつ安く働かせたいと言うのが、
会社の、ひいては資本主義の論理では無いのだろうか。
若者の就職難も、非正規雇用の増加も、中高年のリストラも、正社員の長時間労働も、
すべて根は資本主義の論理が牙をむいた結果だろうと私は思う。
社会には、世代間の対立よりも、もっと本質的な対立軸が隠れているのでは無いかと思っている。

最後に、今のNECグループにおける成果主義の進行度について。
数年前に役割グレードを適用したNECグループは、
著者の分類するところの第2ステージに移行していると思われるが、
その役割グレード適用者の中に、マネージャーとエキスパートを行ったり来たり
するケースが結構ある。そうしながら等級が徐々に上がっていく仕組みを見るに、
まだ第3ステージ(複線的キャリアパス)には至っていないと考えられる。


【著者紹介】
城繁幸(じょう・しげゆき)
1973年山口県生まれ。東大法学部卒業後、富士通入社。
以後、人事部門にて、新人事制度導入直後からその運営に携わる。
2004年、同社退社後に出版した『内側から見た富士通「成果主義の崩壊」』
(光文社ペーパーバックス)では、成果主義のさまざまな問題点を指摘し、
大ベストセラーとなる。現在、人事コンサルティング「Joe's Labo」代表。
(本書紹介文より抜粋。)
 

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