読書タイム
No.13
国民投票 憲法を変える?変えない?

書名 :国民投票 憲法を変える?変えない?
著者 :豊秀一(ゆたか しゅういち)
出版社:岩波書店(岩波ブックレットNo.697)
発行日:<第1刷>2007年4月5日
価格 :480円+消費税
頁数 :58頁+資料13頁


【はじめに】

去る2007年5月12日、参議院特別委員会にて国民投票法案が可決しました。
別名「憲法改正手続き法案」とも呼ばれるこの法律は、とりわけ憲法9条の書き換えを目的に、
実はすでに戦後間もない時期に自民党によって導入が目論まれていた法律です。
このたびの法案の可決後、急にトーンが下がったからと言って安心はしていられません。
これは憲法改悪への地ならしが一段落ついたから、目先の参議院選挙の争点として
改憲を前面に持ち出すまでも無くなっただけのことでしょう。
7月の選挙で与党が大勝すれば、法が施行される3年後には一気に改憲へと突き進む可能性が大です。
この法律の何が問題なのか、憲法を変えるとはどういう事なのか、
今一度この小冊子を通じて整理しておきたいものです。


【内容紹介】

例えば、次のような事が書かれています。

・国民投票法における問題の一つは、国会の提案から投票までの期間が60日から180日と
 極端に短いことです。これでは国民は法律の善し悪しについてじっくり考える事が困難です。

・最低投票率が設定されていないため、少数の国民の賛成で可決するおそれがあります。

・改憲派の資金力を背景にしたテレビCMは、投票の結果に重大な影響を与える可能性があります。

・今後設置される憲法審査会は、常設機関として国会の閉会中も審査が出来るため、
 これから急速に改正原案の作成が進行すると予想されます。

・例えば新しい権利と言われるプライバシーの権利も、憲法13条の幸福追求権に含まれるとの
 判例があります。憲法を改正しなければ実現しないことと、現行憲法の下、個別の法整備で
 実現可能なこととの区別をすべきです。

・国民投票法案が未整備だった事をして「立法の不作為」と呼ぶのは、言葉の誤用です。

・国民投票と住民投票は、性格の異なるものです。

・憲法とは権力を縛るための法であり、その時々の多数派の都合によって簡単に変えられる
 ようなものであってはなりません。



【感想】

まずは、この問題に関する森永卓郎氏のコラムを紹介したいと思います。
http://www.nikkeibp.co.jp/sj/column/o/83/
問題の本質を簡潔にまとめています。

ところで改憲派の根拠のひとつに「押しつけ憲法論」があると思います。
しかし、過去60年の歴史を振り返ると、朝鮮戦争をきっかけにした警察予備隊の編成から、
今日の集団的自衛権の議論に至るまで、9条はアメリカの軍事戦略にとって邪魔な存在であり、
9条の撤廃に向けた改憲圧力こそが、アメリカの「押しつけ」であると言う状況が続いています。
常に多くの日本人から支持されてきた9条が、アメリカの押しつけや、
それを体現した与党議員達の押しつけによって変えられようとしていると感じます。

現行憲法は古くなった、新しい時代の憲法が必要であると言う議論はどうでしょうか。
イラク派兵によってなし崩しになりつつある平和主義だけでなく、
ワーキングプアの増加は25条(生存権)の理念からいよいよ遠ざかり、
ジェンダーバッシングの激しさは24条(男女の平等)の存続をも危うくさせかねず、
首相の靖国神社参拝は政教分離を定めた20条を無視しているかのようです。
日本国憲法の先進的な優れた理念と、時代に逆行するかの様な現実社会を比較すれば、
悲しい事ですが、憲法は相対的に益々新しくなっているとも言えそうです。

今は日に日に新しい日本国憲法も、いずれはその理念が十分に実現され、
国民が現行憲法に無い新たな権利の実現を欲するにあたり、手続きのための法律を必要とする。
そんな日が来ることを希求します。


【著者紹介】
豊秀一(ゆたか・しゅういち)
1965年生まれ。
89年に朝日新聞社に入社。
青森、甲府支局を経て、社会部で主に司法・憲法問題を担当。
2001年9月から3年間、論説委員(司法担当)を務め、
現在は東京本社編集局社会グループ員。(以上、本書より抜粋。)

 

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