読書タイム
No.14
偽装雇用−立ち上がるガテン系連帯

書名 :偽装雇用−立ち上がるガテン系連帯
著者 :大谷拓朗・斉藤貴男
出版社:旬報社 シリーズ労働破壊@(全3巻)
発行日:<第1刷>2007年9月10日
価格 :1300円+消費税
頁数 :155頁


【紹介文】

 現代日本の労働問題の中でも最も深刻なのは、若年層を中心にした非正規雇用の広がり、
とりわけフルに働いてもまともに生活できないほど低い賃金しか得られない「ワーキングプア」
の問題ではないかと私は思う。このたび旬報社から刊行された「シリーズ労働破壊」全三巻は、
まずその第一巻において、このワーキングプアを生み出す源泉のひとつである「偽装雇用」を
取り上げている。ここで言う「偽装」とは、使用者側が行っているインチキのことであり、具体的
に例を上げれば次のような方策を指している。

 ・労働者派遣法における直接雇用責任を免れるため、実態は派遣でありながら、
  出向者扱いで受け入れる。

 ・派遣から直接雇用に切り替えたものの、賃金も労働条件も派遣の頃と同じ。
  あるいは有期の直接雇用であり、数ヵ月後に解雇する。

 ・どんなに働いても、求人広告に書かれている月収に達しない低賃金。

 ・社会保険、雇用保険の手続きをしない。

 ・片道の切符を持たせて地方から呼び寄せ、地方で紹介した内容とは異なる条件で契約をする。

 かつて、自動車産業をはじめとする日本の製造業の現場には、農閑期の農業従事者などを
臨時の労働力として受け入れる「期間工」と言う就労形態があった。ルポライターの鎌田慧は、
70年代のトヨタ自動車で働く期間工の過酷さを、著書「自動車絶望工場」の中で描いて見せた。
当時から30年以上が経過した現在、その鎌田自身をして「期間工の下に派遣労働者という
新しい階級が登場した」と言わしめるほど、製造現場における派遣労働者の境遇はひどい様だ。
本書で紹介されている事例によると、期間工と仕事の内容は同じながら、賃金は100万円以上
差があり、かつ寮費も光熱費も自己負担のため、これらを控除後の収入は年間で200万円ほど。
そのうえ生産数の増減に対応するため、直接雇用である期間工よりも先に解雇(契約打ち切り)の
対象となる。契約の更新も1ヶ月毎という究極の不安定雇用だ。
 そんな中、つい1年ほど前に、本書のサブタイトルである「ガテン系連帯」と言う名の社会運動が立
ち上がった。立ち上げたのは日野自動車で派遣社員として働く2名の労働者である。
彼らの派遣元は日研総業という登録派遣スタッフ8万人を擁する国内最大手であるが、その日研総
業は、彼らに黙って出向扱いで日野自動車と契約していた。出向であれば、日野自動車には派遣に
対するような直接雇用責任は発生しない。つまり偽装派遣である。この偽装派遣と、期間工との賃金
格差に疑問を抱いた2人が「日研総業ユニオン」を立ち上げ、次いで他の同種の運動とつながる事を
目的にガテン系連帯を発足させた。ちなみに「ガテン」とはリクルート社の発行する求人誌の名称であ
る。製造現場のきつい肉体労働の求人情報をガテンが掲載している事から、同誌で紹介されるような
職場で働く仲間の連帯を目指して、このネーミングとなったと言う。
 本書ではガテン系連帯の活動の模様を、つごう5件の事例を以って紹介している。いずれもここ1年
間の出来事が中心である。大企業の労組が沈滞傾向にあるのとは対照的に、過酷な状況に置かれ
た労働者の起こす底辺からの活動が結びつき、大きな潮流になりつつあるのかも知れない。
彼らの運動こそが、まさに現代日本において最もダイナミックで最先端を行くものなのだろう。


 ガテン系連帯のHPはこちら : http://www.gatenkeirentai.net/


【追記】

 以上、一般的な紹介文を書いてみたが、NECグループとしてどうなのかについても若干触れておこ
うと思う。いま、グループ内の生産工場では非正規雇用を大量に受け入れていると思われる。ある生
産工場における彼らの人件費は、月当たり30万円前後から、更にそれを切る額まで漸減している模
様だ。例えば月26万円であれば、本人の手取りは税込みでも20万円を切ると想像される。NECグル
ープもまた、本書で紹介されているような労働者達によって支えられているのだと考えられる。
 そして本社から生産工場への絶え間無いコストダウン圧力は、一般に単なる生産合理化では満足せ
ず、合理化による必要工数の削減→必要人員の削減→実人員の削減による人件費の抑制と言った形
の要求となっている事を思えば、折々誰かの働く機会が奪われていることは確かだろう。
我々はどこかで、「派遣社員なら首になっても仕方が無い」とか「正社員が解雇されるより派遣社員が解
雇される方が、まだ問題が少ない」と思っていないだろうか。だが、貯金も無く社会保障の枠組みからも
あふれた派遣労働者が職を失う事は、(多くは)住む家があり貯金もあり、失業手当もそこそこ貰える正
社員の失業よりも、もっと深刻だと言う事を忘れてはならないと思う。


【著者紹介】
大谷拓朗(おおたに・たくろう)
労働ジャーナリスト。1966年鳥取県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。
20−30代は主に事件取材。30代後半から労働問題の取材を始める。

斉藤貴男(さいとう・たかお)
ジャーナリスト。1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、
バーミンガム大学国際MA。日本工業新聞記者、『プレジデント』編集部、
『週刊文春』記者などを経てフリーに。著書に『「非国民」のすすめ』(筑摩書店)、
『絶望禁止!』(日本評論社)、『改憲潮流』(岩波書店)、
『人間選別工場』(同時代社)、『分断される日本』(角川書店)など。
 

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