読書タイム
No.15
日雇い派遣−グッドウィル、フルキャストで働く

書名 :日雇い派遣−グッドウィル、フルキャストで働く
著者 :派遣ユニオン・斉藤貴男
出版社:旬報社 シリーズ労働破壊A(全3巻)
発行日:<第1刷>2007年9月10日
価格 :1300円+消費税
頁数 :155頁


【内容紹介】
 いまや労働者の3人に1人、とりわけ35歳以下の若年層では半数が非正規雇用と言われている。
シリーズ労働破壊の第2巻で取り上げるのは、その日その日で働く場所が違い、しかも仕事のある
時だけ会社との雇用関係が成立する超不安定の非正規雇用=「日雇い派遣」である。
 派遣会社に登録しておけば、携帯電話に翌日の仕事の場所や内容に関するメールが入る。メールに
したがって現場に赴き、そこでの指示に従って働き、派遣会社の事務所に戻って勤務証明と引き換えに
賃金をもらう。きつい肉体労働でも日給は7000円ほど。そんな日雇い派遣だけで生計を立てている
人の数が、全国で数万人規模に増えているらしい。
 日雇い派遣を扱う会社としては、グッドウィルとフルキャストの2社が国内最大手である。本書は、
この2社と契約して働く労働者の仕事の実態について、いくつかの事例を紹介している。それらは、
重さ200キロもあるマットを運ぶ仕事であったり、3階建てのビルの屋上から下まで階段を100
往復以上しながら荷物を降ろす仕事であったり、あるいは日中から深夜まで食事も取らずに立ち仕事
を続ける野球場の案内であったりと、健康で体力に自信があっても困難な仕事が中心のようだ。
そして単に仕事がきつくて低賃金と言うだけでなく、そこに様々な法律違反が入り込んでいる事も
明らかにしている。例えば次のような違法行為が行われていると言う。

 ・建設や港湾運搬作業など、労働者派遣法で禁止されている業種に従事させている。
 ・「データ装備費」「業務管理費」と言った名目で、給料からピンはねが行われている。
 ・作業開始時間よりも早い時間に集合をさせておきながら、作業開始までは無給である。
 ・二重、三重の派遣を行うことがある。
 ・有給休暇なし、残業の割増賃金なし、休憩時間なし。
 ・備品を自費で買わせる。
 ・雇用保険がない、社会保険がない。
 ・上のような違法行為が表ざたにならない様、労災隠しをしている。

 更に、違法行為とまで言えないにしても、派遣会社の登録カードにサラ金のキャッシング機能まで
付けている例もある様だ。日給7000円程度では、年間300日働いても210万円にしかならない。
まさにワーキングプアである。それほど安い賃金で働かせ、その結果身銭に困れば、どうぞサラ金に
借りてくださいと言うことなのだろう。

 ネットカフェ難民と言う言葉もここ1年くらいで急速に浸透してきた様に思う。帰る家が無い
ため、24時間営業のネットカフェ(漫画喫茶)に寝泊りする者のことであり、いわばホームレス
の一形態である。年代は若者が中心だが、40代以上も居るという。彼らの多くが日雇い派遣に
従事している。格安ネットカフェなら、シャワー付、ドリンク飲み放題で1500円/日(翌朝まで)
だが、それでも1ヶ月なら4万5千円になる。4畳半でガス水道つきといった物件なら、東京都内でも
月3万円代で借りられる事を思えば、やはり割高と言える。それでも彼らがネットカフェを住みかと
するのは、貯金が出来ないためにアパートの敷金礼金が払えないからだと言われる。住居のある無しは
命に関わる問題である。貧しい者が、今を生きるために必要な手段を割高な値段で買わされ、
ぎりぎりまで搾取されて行く構図の一面がここに見られる。

 実はつい20年ほど前まで、派遣と言う働き方は違法だった。これは職業を斡旋する業者が
労働者から中間搾取をするのを防ぐためで、職業安定法で規制されていたものである。
これに対し、1985年に成立した労働者派遣法は、専門的な職種に限り派遣業を認めた。
当時の趣旨は、社内で人員を確保するのが困難な専門的な仕事があり、なおかつそれが
一過性の場合に限って、社外から専門スタッフを受け入れる事を可能にすることが目的であり、
常用雇用(正社員)の代替としてはならないと言うものだった。
 ところがその後、法改正の度に派遣可能な職種の範囲が拡大されて行き、そして99年の
法改正によって、それまで派遣可能な職種を特定していたリストが、派遣の出来ない職種を
特定するネガティブリスト方式へと180度変わった。03年には、このリストから製造業務が
外され、今や残ったのは「建設業務」「港湾運送業務」「警備」「医療(一部は可)」の4職種、
つまり命にかかわる危険性の高い業務だけが派遣不能となっているのみである。

 さて、上に見るように、日雇い派遣の労働・生活環境にはひどいものがある。しかし本シリーズの
特徴は、単に悲惨な現状をルポするだけでなく、そこからの突破口を開こうとする活動をこそ、
主題として取り上げていることである。2006年3月5日にはグッドウィルユニオンが、
2006年10月19日にはフルキャストユニオンがそれぞれ結成されている。このうち、
フルキャストユニオンは、今年の春闘で様々な権利を勝ち取り、大幅な躍進を見せた。
それらは、

 ・スタッフの外面的な容姿(茶髪、不潔感、容姿老など)に関する個人情報の保有を廃止する。
 ・「業務管理費(賃金のピンはね)」を過去にさかのぼって返還する。
 ・集合時間を強制した場合は、集合時間から賃金を計算する。

などである。
一方、グッドウィルユニオンも、データ装備費の変換を求めて交渉中である。8/23には
東京地裁へ提訴しており、今後の展開が注目される。

日雇い派遣をめぐる悲惨な現状が、さまざまな違法行為から来ている事は確かであろうが、
それ以前に、この様な就労形態を法律で認めていることにこそ、根本原因がありそうだ。
本書の最終ページでは、「登録型派遣の禁止」、「派遣可能業務を専門的職種に限定する」、
「有期雇用の禁止」などが社会に必要な規制であると結論づけている。
この結論を支持したいと思う。



【著者紹介】
派遣ユニオン
労働者派遣や偽装請負問題がクローズアップされてきた2005年、
派遣労働者をはじめとする非正規雇用労働者の組合づくりに特化した
ユニオンを作ろうということで結成されたのが「派遣ユニオン」である。
フルキャストやグッドウィルで働く日雇い派遣労働者や内勤の正社員、
KDDI国際電話センターで働くパート・契約社員、労働法の適用を逃れる
ために広がる「個人請負」労働者など、さまざまな雇用形態で働く仲間
からの相談を受け、労働組合づくりやトラブル解決に乗り出している。

斉藤貴男(さいとう・たかお)
ジャーナリスト。1958年東京生まれ。早稲田大学商学部卒業後、
バーミンガム大学国際MA。日本工業新聞記者、『プレジデント』編集部、
『週刊文春』記者などを経てフリーに。著書に『「非国民」のすすめ』(筑摩書店)、
『絶望禁止!』(日本評論社)、『改憲潮流』(岩波書店)、
『人間選別工場』(同時代社)、『分断される日本』(角川書店)など。

 

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