読書タイム
No.19

肩書きだけの管理職
−マクドナル化する労働−


 書名 :肩書だけの管理職

     マクドナルド化する労働

著者 :安田浩一

出版社:旬報社

発行日:<第1刷>20071225

価格 :1300円+消費税

頁数 :本文159頁

 

【内容紹介】

 マクドナルドの店長が未払い残業代と慰謝料を求めていた訴訟において、今年の1月に東京地裁は、

原告の主張を認めて750万円の支払いを会社側に命じる判決を下した。本書がまず紹介するのは、

この裁判を闘った高野広志氏の事例である。高野氏は、2003年にマクドナルド高坂店に赴任して以来、

毎朝4時には起床して6時までに店に入り、仕事を終えるのは0時過ぎと言う過酷な日々を送っていた。

それもすべては店長として最小限のコストで店の売り上げ目標を達成し利益を上げるためだった。

睡眠時間は1日わずか2〜3時間で、休日も1ヶ月に3日程度。しかも店長は管理職だからと言う理由で、

残業代も支払われなかったという。こうして2年後には「症候性脳梗塞」を患うに至る。

 続いて本書で紹介するすかいらーく、セブンイレブン、コナカのどの例も、店長と言う、あるいは管理職と

言う肩書を根拠に、際限の無い長時間労働に駆り立てられ、賃金さえまともに支払われない実態を

生々しく伝えている。

 

【管理職とは何か?・・・NECの場合】

 管理職を取り巻く過酷な労働環境の背景には、「管理職」と「管理監督者」との混同がある。労働基準法

は、管理監督的地位にある者に対し、労働時間のほか、休憩、休日に関する規定も適用されないことを

定めている(41条2項)。しかしここで言う管理監督者とは、一般に経営と一体の立場にある者を言う。

これをもう少し具体的に言えば、次の4つを元に総合的に判断されている。

 

 1.勤務時間に対する拘束が無いこと。

 2.人事に関わる決定権があること。

 3.企業全体の経営に関わる重要な決定権があること。

 4.給与、一時金などで十分な優遇を受けていること。

 

 まず勤務時間だが、例えば朝の定例会議への出席のため8時半出勤などを命じられていると言うので

あれば論外である。2.の人事権については、人事部の部課長などが有する権限を前提にしており、

仮に職場で新たに受け入れる派遣社員を部長が面接したからと言って、この程度では人事に関わる

決定権とは見なされない。(なお別件だが、派遣社員に対する事前面接は、労働者派遣法26条で禁止

されている違法行為である。) 3.についても、仮に社長や役員と同じ会議に同席しようとも、自らの意見が

会社の経営方針の参考にされるという程度で、決定そのものに関われなければ、やはり該当しないと言う

べきではないか。

 最後に4だが、NECの主任クラスの場合、賃金バンドが上位のVであれば、Vワーク(残業代を1時間/日

分だけ支給、月に約20時間分の支給となる)対象者で年収は800万円前後だろう。Vワーク適用除外と

なる長時間残業者なら、もっと多いはずである。一昔前であれば、NECの40歳課長は年収1000万円

だったろうが、今は役割グレード等級9(課長なりたて)なら800万円台で主任の上位とほぼ同じ、等級7

(部長クラス)でやっと1000万円超と言ったところではないだろうか。少なくとも、賃金で特別な優遇を受けて

いるとは言えまい。

 以上から、少なくとも課長や部長(役割グレードの等級7以下)など、中間管理職と呼ばれる立場の者は、

法律で規定される管理監督者には含まれないと解釈されるべきだろう。

 

【労働組合との関係】

 2002年以来、電機連合は部下なし管理職の組合員化を目標に掲げている。今年の春闘は、冒頭の

マクドナルドの例もあって大いに追い風が吹いたはずだが、NECに関する限り果果しい成果は無かった

ようである。上記で見てきたように、部長クラスであっても経営と一体の立場とは言い難いと思うのだが、

たかが部下なし管理職の組合員化に何をそんなに手間取っているのだろうか。あと数年で主任と役割

グレードの人数が逆転しかねない現在にあって、(労働者を組合に集結させるという)ユニオンショップ

制度の唯一とも言える長所が機能していない。

 こうして管理職の組織化が停滞している間に、この3月にはNECエレクトロニクスのリストラによって、

子会社のNECマイクロシステムでは役割グレードの退職者を大勢出してしまっている。やはり私としては、

特に未組織の役割グレード適用者には、電機ユニオンなどの管理職でも入れる組合へ早急に加盟する

ことを勧めたいと思う。

 

【おわりに】

 この「シリーズ労働破壊」3部作は、市場原理主義が横行する現代社会の中で、働く者の人生がとことん

まで搾り取られていく姿を、「偽装雇用」「日雇い派遣」「肩書だけの管理職」と言ったそれぞれの局面から

伝えている。本書はその第3弾である。(過去の2著作についても、この読書たいむの中で紹介している。)

 これら3つの局面に共通するのは、労働法などの法律に対する曲解や、意図的な法律無視があることだ。

しかし、ではなぜそのような法律無視が大手を振って罷り通って来たのだろうか。そこには、我々が結局

生きるためには働くしかない弱い存在であるという事実があるのだと思う。もっと言えば、我々にとって労働力

だけが唯一の売り物であり、生産手段はおろか、いまや生存手段からも切り離されているがゆえに、

「働かない自由」などと言う物はあって無きが如きであり、それが使に対する労の側の決定的な立場の弱さに

帰結しているのだろう。その弱い我々は、労働組合を作って団結することでしか使用者と渡り合えない。

この3部作の伝える悲劇が、いずれも労組の無いところで起き、そして労組を結成する事によって克服

されていることに是非注目していただきたい。

 

 

【著者紹介】

安田浩一(やすだ・こういち)

1964年静岡県生まれ。

『週刊宝石』(光文社)記者などを経てフリーに。

著書に『告発!逮捕劇の深層』(アットワークス)、『JRのレールが危ない』(金曜日)、

『JALの翼が危ない』(金曜日)、『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)など。

事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続けている。

(以上、本書より

NEC関連労働者ネットワーク

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