読書タイム
No.3
それでも 辞めないが勝ち

書名:それでも辞めないが勝ち
著者:朝比奈知彦(あさひなともひこ)
出版社:株式会社 実業之日本社
発行日:2004年3月12日 初版
価格:1400円+消費税
http://www.j-n.co.jp/

 『バブル経済が崩壊した1990年初頭、過去の日本には存在しなかった(!?)リストラという輸入物の 「トラ」が檻を飛び出し、経営者という飼い主に忠誠を尽くし始めました。そして、悲しいことに その餌は、それまで経営者という飼い主に忠誠を誓い、人生を託し、安心しきっていた従業員でし た。当初は、飼い主側もリストラするに忍びないのか、その犠牲になる社員に、それまでの忠誠に 報いる意味も含めて早期退職割増金制度とか、健康保険の延長制度とか、持ち家分譲残金の部分カ ットなどお供与と、できる限りの手段でカイシャを守る自分の後ろめたさを拭おうとしました。
 それが「セカンドライフ支援制度」「人生転進プラン」「第二の人生支援制度」などと、保険会 社のコマーシャルみたいな名前の早期退職の促進、勧奨というかたちで、大手企業の人事部から、対象とする職種や年齢の社員に提示され始めたのです。
 経営者はバブルから自己責任に目覚めたように、従業員のための会社から、欧米ふうに株主に利 益を還元する会社に急旋回させました。自分たちの経営責任回避や弁明にもそれは必要なことでし た。
 はじめは、経営者にとっても従業員にとってもリストラは悲劇の始まりでした。
 しかし、時の流れは恐ろしいもので、リストラが雇用調整の代名詞化し定着していくにつれて経営者の従業員への後ろめたさもなくなり、企業の再構築後には、「リエンジニアリング」そた、「 ダウンサイジング」という言葉に象徴されるやり方が導入され、日本経済再生のためと、リストラ の正当性を説く学者や経済評論家も多くなり、雇用はリストラ云々より、リストラ以後の雇用形態 や、労働形態を問題視するようになりました。
 リストラは企業の存続という大義名分で労働組合をも納得させ、後はリストラの条件闘争か、残 る従業員の利益確保に汲々とするしかない状態にしています。』

 書籍の中から、かなり長く引用させていただきましたが、現在の日本の状況を的確に言い当てているのではないでしょうか。小泉政治の無策、経営者の無責任さ、労働組合のふがいなさは、直接触れられていませんが、労働者を苦しめている元凶に思いをはせることができると思います。
 
本書の構成は以下のようになっています。
第1章 この現実を再度、認識しよう
第2章 あなたはどのジンザイですか
第3章 いまのカイシャを辞めていい人、困る人
第4章 カイシャから独立できる人、できない人
第5章 いまのカイシャに勝るものなし
最終章 カイシャ人間の生きがい探し

 企業が求める労働者像は、かっては横並びの能力で、会社に忠実な協調性が求められていましたが、いまでは、「個」の能力で即戦力が求められており、選別されている。として、会社が重視す る順に「人財」「人材」「人在」「人罪」と4段階に分かれるとしています。「人財」は文字通り 会社の宝として、将来の経営陣候補にもなりえて、リストラ対象から除かれます。「人材」は企業活動の材料。消耗品としての価値評価で、この人材の質量いかんで業績に影響がでるが、取替え可能でリストラの対象になりうる。「人在」は「人在りき」で存在感は意味せず、企業活動を左右する存在ではなく、リストラが始まれば一番先に対象となる。「人罪」は会社の採用の見込み違い、 ミスマッチで入社した人で、その会社では用を成さない人。しかし、別の会社に移れば、双方のニ ーズが合い、力が発揮でき「人財」にもなりうる。としています。

 この選別に全面的に賛成することはできませんが、企業の身勝手さから見た選別として、なるほ どと思える点もあります。かって「人財」として大事にされてきたホワイトカラーはIT化、組織 のフラット化によって、「人在」に追いやられています。
 ただ、企業活動は「人財」のみで動くわけではありません。実際に生産、営業活動する人、組織間の風通しをよくする潤滑油となる人がいて、初めて企業は業績をあげ、活動を存続させることができるのです。そういう意味で「人材」も「人在」も十分に大事にすべきで、とっかえひっかえできるものではありません。今の経営者は目先の利益のみ追い求め、大きな勘違いをしているのではないでしょうか。

 今の労働市場が非常に厳しくなっている状況を、多くの例を示して明らかにしています。今、自ら転職を考えている人は、ここまでやったら大丈夫といえる準備期間が必要です。ましてや、転職を考えていない人が、会社から退職を迫られて、一時の感情で「辞めてやる!」と飛び出して、再就職の道はきわめて困難であることが、この本でわかります。『今の会社のなかで「必要」とされるための努力。「辞めろ」を云われても「成らぬ堪忍するが堪忍」で堪忍袋の緒を2本も3本もまきつけておいてください』と説いています。

 最近、「会社を辞めるな!」の特集が週刊誌やビジネス誌で組まれているそうです。これ以上、リストラで失業者が増えたら、日本の社会はどうなってしまうのだろうか。と社会も真剣に考えはじめました。この本を読んで、現在の自分に安住せず、自分を高めるための努力の必要性と、会社に「辞めろ」と言われても「はいそうですか」と簡単に言わない自分になるためには、どうすべき か。と考えさせられました。

 

[著者紹介]
朝比奈 知彦(あさひな ともひこ)
1939年北海道小樽市生まれ。
ビジネス作家、人材アナリスト。横浜市立大学非常勤講師(総合講座担当)。マーケティング・コンサルタントとしても活躍中。
北海道大学卒業後、家庭用品トップメーカーの花王に入社。ブランド・マネージャーなどを経験後に転職。アパレルメーカーの宣伝部長、外資系広告代理店の営業部長職などを経て、現在に至る。1993年、自身のリストラをテーマにしたデビュー作『小説・退職勧告』(かんき出版)が話題となり、当時、「リストラ作家」の異名をとる。その後、再就職することなく、フリーランスの立場でサラリーマン三部作『辞めないが勝ち』『夫婦(ふたり)で楽しく五掛け生活』(ともに実業之日本社)、『ビジネスマン、心のリフォーム』(双葉社)などを刊行。独特の人材論や学生のインターンシップなどをテーマに、セミナーや講演も行っている。

 
前ページへ