読書タイム
No.4
「クビ!」。

書名:「クビ!」論。
著者:梅森 浩一(うめもりこういち)
出版社:朝日新聞社
発行日:2003年6月30日 第1刷発行
価格:1200円+消費税

外資系企業の人事部長として1000人以上のクビを切り「クビキラー」と言われた男の衝撃的な著作 。というのが第一印象でした。読み進むうち、単なるクビの切り方指南します的な自慢話ではなく 、外資系企業だからできたという著者の言葉にあるように、雇用をめぐる文化の日米の根本的違い 、現在の日本の経営者が行っているリストラ首切りの問題点など、深く示唆にとんだ内容です。
米国的競争社会がグローバルスタンダードとして世界に輸出されることが、本当に人類にとっていいことなのか?と言った視点でみると、この本はお勧め本の範疇にはいりませんが、人を蹴落とし
、蹴落とされる競争はまっぴら、安定した雇用の中で力を発揮したい、と願うひとにとって反面教師的役割となると思い、掲載しました。

本書の構成は以下のとおり
第1章 クビキラー誕生
第2章 こうやって1000人のクビをきった
第3章 こんな社員がクビになる
第4章 日本企業という名の最悪のクビ切りシステム
第5章 大クビ切り時代をどう迎えたらいいのか

著者は大学卒業後、日米合弁会社のフロンガス製造会社に入社しますが、フロンガス規制の動きが
強まる中で、早々と見切りをつけ、外資系のチェース・マンハッタン銀行へ転職します。ここで「
人事・労務の専門家」として人事部へ配属になり、在日支店の雇用形態を、完全に米国型に
切り替えようと、米国本社から送り込まれてきた女性上司の下につきます。この中で米国式リスト
ラ、クビ切りを経験します。そして再度転職した先で、34歳の若さで人事部長に就任、合併後のリ
ストラで自ら最初のクビ切り交渉を体験、その後いくつかの企業を渡り歩き、1000人以上のクビ切り
を行ってきました。うまくクビを切るテクニックを身につけ、その名声で各社から声がかかります
が、あまりにも上手くクビを切るため、予定より早くリストラが終わると、お役ごめんで、今度は
自分がクビを切られるという経験もしています。

日本企業が行っているクビ切りに対し「目的も脈略もなく、ただコスト削減のために社員のクビを
切っており、「クビを切った」後、業績が上がり続けたという話を聞いたことはない。こういう
経営者は他人のクビを切る前に、辞任すべき」と厳しく指摘しています。
そして、やめさせるために用意する「早期退職優遇制度」は果たしてお得なのか?と提起していま
す。これまで日本の企業は「終身雇用」と「年功序列賃金」を労働者に約束していたはずです。「
若いときには安いが、年齢が上がれば給料も上がるから我慢してくれ」と言って働かせてきたので
す。
現在中高年の労働者に向けられている攻撃は「給料が高すぎる」ということですが、これは会社が
約束してきたことです。若いときに低賃金で我慢させられ、いまさら「高い」と言われては「約束
違反」とお怒って当然のことを経営者は行っています。
ウソをついた約束違反の慰謝料と考えれば、この「優遇制度」の退職金割り増しはあまりにも少な
いとして、「今51歳の人なら、定年まで9年ある、もらえるはずだった9年分の給与の額をください
」と言える。としています。そして実際に支払った企業もある。と指摘しています。

米国と日本の雇用土壌の違いでは、米国は「クビを切られてもキャリアに傷がつくことはなく、む
しろプラスになる場合もある」、日本では「クビを切られたことだけで仕事ができないと烙印を押
された格好になり、再就職が困難になる」という根本的な違いがある。また米国は解雇と雇用がセ
ットで行われ、雇用環境は保障されているが、日本は減らすことが目的で、雇用環境は乏しい。

こういう中で、企業のなかでいろんな部署を経験させられゼネラリストとして育てられた日本の労
働者のクビを切るということは「人に飼いならされてエサのとり方も知らない動物を、いきなり自
然界に返すような暴挙」であると言っています。

最後に本書を読んで、世界中が簡単に行きかうことができる世の中になった今、人類にとって、一
番いい働き方はどうなんだろう?真剣に考える時期に来ているのではないだろうかと思います。特
に「中国は人件費がやすいから」と安直に製品の製造を中国に移してしまう単純な経営者のやり方
をみて、こんな発想では持たないな。と率直に思います。


[著者紹介]
梅森 浩一(うめもりこういち)
1958年、仙台市生まれ。
青山学院大学経営学部卒業後、三井デュポン・フロロケミカルに入社する。
88年、チェース・マンハッタン銀行に転職。
93年34歳の若さでケミカル銀行東京支店の人事部長に就任。
以後、人事・雇用の専門家として、チェース・マンハッタン銀行、
そしえて・ジェネラル証券東京支店で、それぞれ人事部長を歴任する。
1000人を超える社員のクビを切り、「クビキラー」と恐れられた。
現在、エグゼクティブ・人事コンサルティング「アップダウンサイジング・ジャパン」
(www.updownsizing.com)を主催している。
 
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