読書タイム
No.7
希望格差社会 〜「負け組」の絶望感が日本を引き裂く〜

書名 希望格差社会 −「負け組」の絶望感が日本を引き裂く
著者 山田 昌弘
出版社 筑摩書房
発行日 2004年11月10日
価格 1995円(税込み)


目次
1.不安定化する社会の中で
2.リスク化する日本社会 −現代のリスクの特徴
3.二極化する日本社会 −引き裂かれる社会
4.戦後安定社会の構造 −安心社会の形成と条件
5.職業の不安定化 −ニューエコノミーのもたらすもの
6.家族の不安定化 −ライフコースが予測不可能となる
7.教育の不安定化 −パイプラインの機能不全
8.希望の喪失 −リスクからの逃走
9.いま何ができるのか、すべきなのか


「日本社会は将来に希望が持てる人と将来に絶望している人に分裂していくプロセスに入っているのではないか。これを私は『希望格差社会』と名づけたい。一見、日本社会は、いまでも経済的に豊かで平等な社会に見える。フリーターでさえ、車やブランド・バッグをもっている。しかし、豊かな生活の裏側で進行しているのが、希望格差の拡大なのである。」と著者ははしがきの中で言っている。

戦後ゼロから出発した日本は、高度経済成長を得てバブル期まで豊かな生活をめざすという「希望」をいだいて、サラリーマン−主婦型家族形成で、誰もが、がんばれば、収入が増え、安定した豊かな生活をめざすことが可能だった。
ところが1990年にバブルがはじけたころから企業の雇用行動が変化、低成長時代を乗り切り、グローバル競争に打ち勝つためとして、専門的、創造的労働者は正社員で、単純労働者、サポート労働者は派遣、アルバイトで、という方向へ転換した。
この結果、フリーター、派遣労働者が大幅に増加、正規社員が減少するという状況が生まれ、労働、家庭生活が一挙に不安定化に。特に若者にしわ寄せが行き、2001年の若者の不安定労働者数は500万人にも上った。

企業に安定的に労働者を供給する役割をもっていた教育制度のパイプラインが企業の需要減少で、機能不全状態に。
しかし若者は、確実に希望する職業につけるという保証がなくとも。希望の職につきたければ、リスク覚悟で、パイプラインに入らなければならない。つまり確実性はなくなったが、学校に入らなければ確実性どころか、可能性もない。若者はリスクを強要される。

希望(hope)は努力が報われるという見通しがあるときに生じ、絶望は、努力してもしなくても同じとしか思えないときに生じる。
今の若者の不安定感は個人の問題ではなく、社会の問題。社会全体の「活力」や「健全さ」「社会秩序」に関わってくる問題である
「希望を持つ人が多い社会は、発展し、活力がみなぎるだろうが、絶望する人が多い社会は停滞し、堕落し「社会秩序」が保てなくなるだろう。」として日本のあり方に警笛をならしているように思える。

ここまでの現在の日本が抱えている問題、特に若者の「希望をもつ」というささやかな願いにも格差をつける問題を深く分析し解明していることに「うーん」うなずかされる。
ここまでで、一見の価値はある。
ただ最終章の「いま何ができるのか、すべきなのか」はこれまでの緻密さから一転、大雑把で、実現性の有無に首を傾げたくなる内容となっている。

企業のグローバル競争へ打ち勝つためという口実への批判はないように見受けられる。私はこの問題の根っこは社会のあり方を企業中心におくことに問題があるように思える。この国で働く人、生活する人を中心に社会のあり方を考える方向に切り替えることなしに、若者の希望格差を無くし、社会の活性化を実現する道はないと思うがいかがでしょうか。
グローバル競争だから日本だけでは解決できないということでしたら、やはり「万国の労働者団結せよ!」でしょうかね。



著者紹介
山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
1957年東京都生まれ。1986年東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。現在、東京学芸大学教育学部教授。専門は家族社会学・感情社会学。内閣府国民生活審議会委員、東京都児童福祉審議会委員などを歴任。著書に、「近代家族のゆくえ」「家族のリストラクチャリング」(新曜社)、「結婚の社会学」(丸善ライブラリー)、「未婚化社会の親子関係」(共著、有斐閣)、「家族というリスク」(勁草書房)、「家族ペット」(サンマーク出版)、「パラサイト・シングルの時代」「パラサイト社会のゆくえ」(ちくま新書)など多数がある。

 

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