労働法制全面改悪へ
 厚生労働省に労働政策審議会が建議

2003,1,20
労働者の労働条件にかかわる制度のあり方を審議してきた厚生労働省の労働政策審議会は2002年12月26日、最終報告をまとめ、同省に建議しました。
裁量労働制の拡大や、解雇ルールの導入、有期雇用の期間延長など経営者にとって「雇いやすい」方向に全面改悪する内容となっています。これに基づき政府・厚生労働省は2003年の通常国会に法案を提出する予定です。


ここでは、建議内容のポイントを解説します。合わせて建議原文を掲載しますので、読み合わせて、内容を深くご理解していただき、これらが導入された場合、労働条件にどのような影響が出てくるのかをつかんでいただきたい。

また、労働基準法に係わる建議の他に、派遣法、職業安定法、雇用保険法に係わる建議も同時に行われており、最後に簡潔にご紹介します。

対象となる建議

今後の労働条件に係る制度のあり方について(報告)


【解説】


 報告の要点は、以下のとおり。法改正は基本的に6点。


(1)就業規則及び労働契約の締結に際し交付する書面の中に、「解雇の事由」を明記。
(2)有期労働契約について
  @有期労働契約の期間の上限について、原則を1年から3年に延長、専門的な知識等を有する労働者及び高齢者(60歳以上)は5年にする。
A「有期労働契約の締結及び更新・雇止めこ関する指針」の根拠規定を設ける。

(3)解雇ルールについて
  @使用者は、法令により解雇が制限されている場合を除き労働者を解雇できるが、「使用者が正当な理由がなく行った解雇は、権利の濫用として、無効とする」規定を設ける。
A解雇を予告された労働者は、解雇の予告日から退職日までの間においても、解雇の理由を記した文書の交付を請求できる。
B裁判所が解雇無効を判断したとき、当事者の申立てに基づき、一定の要件の下で、当該労働契約を終了させ労働者に一定の額の金銭の支払を命ずることができることとする。
(4)企画業務型裁量労働制について
  @労使委員会の決議(全員の合意→4/5の多数決に=協定代替決議も同様)、労働者代表委員の信任手続の廃止、労使委員会の設置届の廃止、健康福祉確保措置の実施状況報告の簡素化、決議の有効期間の1年限度の撤廃。
A企画業務型裁量労働制について、対象事業場を「事業運営上の重要な決定が行われる事業場」(=注:本社)に限定しないこととする。

(5)専門業務型裁量労働制について
  @健康福祉確保措置及び苦情処理措置の導入

(6)時間外労働の限度基準における「特別の事情」を臨時的なものに限るようにする。
   
上記、法改正の対象となる項目のポイントを見てみよう。

有期雇用契約の雇用期間延長は、一見、有期雇用で働く人にとって有利になったような気がするが、大きな落とし穴がある。現状は1年毎に契約更新し、これを繰り返すことで”継続雇用”という条件が現状として維持されている。判例でも更新を繰り返し、実質的に社員と同じ状態になった場合、簡単に雇用を打ち切れない。これが3年に延長されれば更新回数が減り判例の適用を逃れることができる。
 朝日新聞で女性のワーキングライフを考えるパート研究会代表の酒井さんは「雇う側の使い勝手ばかりが向上した感じ。正社員は一定の手続きを踏めばやめたい時やめられる。有期雇用者は退職の自由が保障されない。改定は雇用者が縛っておける期間が3年まで延びたにすぎない。」と言い切る。
 現状、上限が1年でも不況の影響で1ヶ月や2ヶ月でやめさせる会社が増えていて、3年に上限が延ばされても、延ばすかどうかは会社の意向しだいで、労働者の契約期間が延びるとは限らないようだ。
 そしてもう一点、注意しなければならないのは、正社員を3年の有期雇用に切り替える可能性が高いという点。この点では建議は「企業において期間の定めのない労働者について有期労働契約に変更することのないようにすることが望まれる」と非常に弱い調子で記載され、「法案に盛り込む」とは言っていない。

解雇のルール化は、「使用者が正当な理由なく解雇した場合、権利の濫用として、無効となる」とあり、労働者に有利にあるかのように受け取れますが、就業規則に「解雇の事由」を明記すれば解雇でき、またたとえ裁判所が「無効」と判断したば場合でも、「金銭による労働契約の終了」を認め、不当解雇であっても金さえ払えば労働者を解雇できると、使用者優位の内容です。

裁量労働制では、「企画業務型裁量労働制」の対象を拡大し、導入要件・手続きを大幅に緩和するとしています。
 現状の企画業務型裁量労働制は13項目にわたるチェック項目を設け、何でもかんでも裁量労働へという企業の意図に厳しい規制を設けている。これが大幅に緩和されるということは、本来裁量労働の対象とならない労働者も”労働時間管理をしなくていい”という一点で無理やり対象とさせられ、際限のない長時間労働を押し付けられる危険性があり、サービス残業が蔓延することが確実。このことは過労死増加の道でもあります。
 もともと企画業務型裁量労働制は次の4要件を満たす場合にその導入を認めている。
  (1)事業の運営上重要な決定が行われる事業場であること。
  (2)事業場に、労使委員会が設置されていること。
  (3)労使委員会がその全員の合意により、対象業務、対象労働者等8項目の決議をしていること。
  (4)労使委員会の設置及び前記(3)の決議を所轄労基署長に届け出ていること。
この要件を十分な理由・審議もなくはずそうとは、労働者のことを真剣に考えて審議しているとは到底思えないところです。(労働政策審議会労働条件分科会の議事録を見ていただきたい)
 
 裁量労働制を語るとき、避けて通れないのが、対象労働者へ与える「裁量権」の問題です。ところが、審議会では「労働時間の長短に比例しない正確の業務」と単に労働時間のみに限って議論しています。「使用者が労働者へ細かい指示をあたえず、労働者の高度な裁量性と判断力をもって、新たな価値を創造する者」が対象であるとすれば(NECも同様)裁量権として、人、金、時間がその業務遂行にあたって必要とされる量を保障されなければならないのではないだろうか。つまり、人事権、経費の決裁権を加える必要がある。
そういう意味では、現状の4要件に加えて、以下の要件を付け足さなければならない。
(5)対象者には、使用者が期待する業務の範囲において、人事権、経費決裁権、労働時間管理権を与えなければならない。

第18回労働政策審議会労働条件分科会議事録
第19回労働政策審議会労働条件分科会議事録



その他の建議

労働者派遣法

派遣期間の上限を1年から3年へ
・製造業への派遣を1年に制限した上で解禁
・最長3年となっている通訳や秘書など専門性の高い26業務の期間制限を撤廃
・派遣先が派遣期間を超えて派遣社員を就業させ続ける場合は、直接雇用契約の申し込みを義務付け
・派遣期間の終了後正社員として雇われる可能性のある紹介予定派遣は、派遣修行開始前の面接、履歴書の送付を可能に

ポイント
 ・派遣対象業種を製造業へ拡大、派遣期間を3年へ延長と大幅緩和で、いっそう正社員から派遣社員への置き換えがすすみ、不安定労働者が増加することに。
 ・「派遣期間を超えて就業させるときは、直接雇用契約の申し込みを義務付け」とあるが、現状の企業の大部分が正社員を増やさず、労働力確保を目的に派遣社員を受け入れているのだから、全く効力なし、逆に契約更新がなくなり、いっそう派遣社員の雇用が不安定になる恐れあり。むしろ正社員の比率UPを企業に義務づけ、希望する派遣社員を正社員にする法制定を望みたい。


職業安定法

・地方公共団体の無料職業紹介事業を可能に
・職業紹介事業者諸手続きの簡素化。
・求職者からの手数料徴収対象者の年収基準の引き下げと現在、科学技術者・経営管理者と絞ってる対象範囲の拡大。

ポイント
 ・問題は、手数料徴収範囲の拡大にある。これでは、再就職も金次第となり、お金のない人は職安で門前払いされることになる。


雇用保険法

現行1.4%の保険上率を05年度から1.6%に
・正社員とパートの2本立てだった給付日数基準の一本化
・離職前賃金比の給付率60〜80%を50〜80%に
・給付期間を残して正社員以外の仕事に再就職した失業者に給付する「就業促進手当」創設
・教育訓練給付の受講費用に対する助成率を8割から4割に

ポイント
 ・根本的に、保険料の増加、給付の削減を狙っている。負担は多く、給付は少なくで労働者にとって、全くいいことなし。
 
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