雇用を守る日本と世界(2)

第一部、欧州から日本を見る

2000年1月4日「しんぶん赤旗」より転載


EU議定書、受け入れの波紋

 企業天国。一九八〇年代の英国はそうよばれました。サッチャー首相が労働組合を徹底的に弾圧したからです。労組対策が不要になって日本企業も相次ぎ進出、ロンドンは欧州戦略の拠点になりました。

 「ところが最近事情が変わってきた」。こういうのは日英両企業の事業展開を応援しているジェトロ・ロンドンの栗山広報部長です。

労組対策が必要に

 「まったく心配なかった労働組合対策が今後は必要になります。賃上げ要求にこたえなければならないし、簡単に労働者の首がきれなくなります。日系企業の労務担当者は頭を痛めていますよ」

 二年半前の総選挙で、労働党が政権に復帰し、労働者の権利保障をきめた欧州連合(EU)の共通社会政策を受け入れたからです。前の保守党政権はEUに加盟(マーストリヒト条約を批准)しながら共通社会政策議定書だけを拒否してきました。

 議定書にもとづき最低賃金制や家族休暇法が導入されたほか、昨年七月には新雇用関係法が成立、十一月には新しい解雇規制法が発効しました。英労働組合会議(TUC)本部のベール政策委員は、「まだ十分ではないが、EU基準が導入されたことで、多発していた横暴な解雇に相当のけん制になる」といいます。

 たとえば不当解雇を裁判で主張できる資格要件としての最低勤続年数をこれまでの二年から一年に短縮。契約更新にあたって労働者にこの資格放棄を求める企業の権利を廃止しました。不当解雇が認定された時に企業が労働者に払う補償の上限を四倍以上の五万ポンド(約九百万円=労働者平均年収の二倍)に引き上げました。

 今年四月からは一定の条件が満たされた場合の労働組合の承認が義務化されます。解雇通告された労働者が会社に苦情や申し立てをするさいに同僚や労組役員を同伴する権利が与えられました。

 「大量解雇や人員整理には膨大な費用と時間がかかる。手続きを怠ると違法になる」。在欧企業にこう注意をよびかけているのは世界的な企業弁護士事務所「クリフォード・チャンス」です。法改定を踏まえてEU各国の雇用関連法の手引を企業に配布。そのなかでとりわけ重要になる事項として欧州労使協議会指令(注)をあげています。

 同指令は、複数の国に事業所をもつ多国籍企業は労働者の代表と経営問題を協議しなければならないことを定めたもの。とくに人員整理の場合は解雇を決定する前に協議が必要で、労働者側は会社の計画を拒否はできないものの、対案を提示して検討をもとめることができます。

ルノーの計画は

 日産に乗りこんで大リストラを発表したルノーは二年前、ベルギーのビルボールド工場(従業員三千百人)を閉鎖しました。その際、法的に義務づけられた労働者代表との事前の協議をしないで一方的に計画を発表したため、フランスとベルギー両国の裁判所はいずれも違法と判断。整理計画の再検討と労働者の再就職のためのプランの再提出を命じました。

 こうした各国レベルの労資協議にかんする方法はEUレベルでは最低基準として欧州労使協議会指令が定められています。

 欧州にも事業再編やリストラ、人員整理の波は容赦なく押し寄せています。ただ「日産のようなやり方は欧州では通用しない」。

 欧州委員会の雇用・社会問題局のバスケス主任行政官は、昨年訪問した東京労連の代表にこう語りました。解雇・リストラにかんして労資の事前協議制度が確立し、いまではほとんどの多国籍企業がこの指令を受け入れているからだといいます。

(つづく)


 欧州労使協議会指令 EU内に千人以上、二カ国以上にそれぞれ百五十人以上の従業員を持つ多国籍企業は、従業員代表との協議機関である欧州労使協議会の設置が必要とする規定です。欧州労使協議会は最低三人、最高三十人で構成され、毎年一回経営中枢と会談。経営側の作成した報告書にもとづいて事業の進展と見込みについて情報交換と協議をおこないます。


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