雇用を守る日本と世界(3)

第一部欧州から日本を見る

2000年1月5日「しんぶん赤旗」より転載


労働裁判所、リストラを断罪

 「工場閉鎖は違法であり無効。労働者を復職させ、補償金を支払え」

 パリ北方の中都市アミアンの労働裁判所(注)が昨年十月二十七日、ヨーグルトで有名なヨープレ社の事件で下した、七十七人の労働者全面勝利の判決です。

EU各国でも注目

 「閉鎖反対と職場復帰の主張が通った。『正義が勝った』という感じを労働者全員がもったと思う」。同社の企業委員会(労使協議会)委員としてたたかいの先頭に立ってきたミシェル・ラバンドさん(42)がいいます。

 この裁判はフランスだけでなく欧州連合(EU)各国でも注目されました。多国籍企業が利益拡大のため国境をこえておこなう事業所統廃合が、雇用という労働者の生活条件を奪ってまで許されるかどうかが真正面から争われたからです。判決はそれが不当であるだけでなくフランスの労働法に照らして違法と断罪しました。

 アミアン工場(従業員百二十人)を含め五つの工場をもつ同社の従業員は千百人。親会社のソディアル・インターナショナル・グループは乳製品生産の多国籍企業。フランスに六千人、他の欧州諸国に二千人の従業員がいます。

 フランスの労働法は、企業が「実際の困難」におちいった場合の人員整理を認めています。しかし審理ではヨープレ社が九七年七千五百万フラン、九八年三千五百万フランの利益をだしながらアミアン工場への投資を意図的に除外していたことが問題になりました。実はヨープレ社は年産二万トンのアミアン工場を閉鎖し、かわりにスペインに十万―十五万トンの生産能力をもつ工場建設を計画していたのです。

 判決は企業が経済的困難からではなく、こうした「経営戦略」のために工場を閉鎖し雇用を犠牲にすることは許されないと判定したのです。上級審で支持されれば画期的な判断になると法曹界でも注目されています。

 「人生をかけて働いてきたのに閉鎖なんて。みんなプロの自覚をもっていたから許せなかった」。ラバンドさんたちは最終勝利へ確信を語っています。

 もう一つ注目された判決が昨年十二月八日、欧州裁判所でだされました。

 英建設会社グループの事業再編で子会社へ移され退職せざるをえなくなった労働者の訴えを認めたものです。会社側は経営は同じだから関連会社への転籍にあたって事前の協議は必要ないと主張しました。

 判決はこの主張を退け、子会社への移籍にあたって労働者の既得権を保障したEUの既得権指令(注)は厳格に守られなければならないと、会社側に高額の弁償を命じました。

「権利の幅が拡大」

 弁護団長のジョン・マクムレン氏は「分社化、子会社化と出向配転によるリストラに歯止めをかけた」と評価。翌日の英紙フィナンシャル・タイムズは「労働者の権利の幅が拡大」と大きく報道、リストラ戦略の足かせになりかねないと解説しました。

 解雇規制がきびしい分だけ、分社化や子会社化で法の適用をのがれる手段が欧州でも多発しています。ドイツで全国的なチェーン店をもつ大手スーパーのカイザーなども、店内のケーキ売り場や肉処理場をそれぞれ別の会社に分割。法の規制のかからない二十人以下にして、解雇などの争いが経営評議会にかけられるのを避けようとしています。

 EUの既得権指令はそうしたやり方への一定の歯止めとなっています。

(つづく)


 労働裁判所 フランス全国二十七市に置かれ、労資それぞれ同数の代表が判事となり、労働争議を裁きます。裁判長は一年ごとに労資が交代します。各市町村に存在する企業の労資代表が候補者名簿に登録され、有権者名簿に登録した十六歳以上の職に就く男女が選出します。

 EU既得権指令 企業譲渡や合弁によって経営者が代わっても、それまでの労働契約にもとづく権利と労働条件は保障されるとするもの。譲渡を理由とした解雇を禁止しています。


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