雇用を守る日本と世界(5)

第一部欧州から日本を見る

2000年1月7日「しんぶん赤旗」より転載


週35時間制、時短で増員を実現

 「百七十五人が新規に雇用され、基本給の維持などがかちとられました。ストは成功でした」

 セーヌ川沿いにある近代的ビルの一室。ラジオ・フランスで昨年(一九九九年)十一月、十日間のストをたたかった労働総同盟(CGT)書記長、マリエレーヌ・エルバズさん(女性)の表情は満足感にあふれていました。

 「季節労働者化」阻む

 ストの最大の目的は、フルタイマーの「季節労働者化」ともいえる労働時間の年単位化阻止でした。これを阻止したうえでの雇用増などの成果です。常勤者三千人、非常勤二千人のラジオ・フランスにとって三十九時間から三十五時間への一〇%の時短を労働強化なしに実現するには五百人の増員が必要で、百七十五人の雇用増だけでは不十分。「週三十五時間」の交渉は改めておこなわれることになっています。

 週三十五時間労働がフランスの労働者のスローガンになったのは一九七八年末のCGT大会でのこと。それから二十年、深刻な失業の解消を主要な目的に九八年六月に第一法が成立。世界で初めて法律によって週三十五時間労働を導入する試みが始動しました。同法は憲法評議会の審議を経て二月一日にも正式に公布されることになっています。

 経営側は「国際競争」を口実に法案に反対し、一方で、雇用増を極力抑え、企業の都合で労働時間を伸び縮みさせる変形労働時間の導入と労働強化をはかろうとしてきました。これにたいし労働者は、雇用を増やして失業を解消し、労働条件の改善をはかろうとたたかいを続けてきました。

 先駆的意義もつ協定

 異なるナショナルセンターに属す五つのエネルギー労組が昨年一月に調印した週三十五時間労働にかんする協定は先駆的意義をもっています。今後三年間の雇用一四―一五%増と、賃下げなし、変形労働時間なしがかちとられました。

 パリ南方のバニュー市。仏電力ガス公社で電気技師として検針の仕事をしているズリディット・ナジェットさん(25)はいいます。

 「週三十五時間制になって、同一賃金(手取り月額六千五百フラン=約十二万円)で、労働時間が減ったのはすてきね。でも、もっと雇用を増やさないといけないと思う。仕事がきつくなっている上に、お客さんの要求を満足させることができないんです」。バニュー地域では再編計画で今後さらに人員が削減されます。

 ナジェットさんは一時間の昼食時間をはさんで原則として一日九時間勤務、週四日労働。「労働時間が減った分だけの雇用が増えていないので五日目も働かなければならないときがある」ともいいます。

 「全国レベルの協定では今後三年間に一万八千人―二万人が採用され、およそ四千人の実質増となります」とCGT専従のフィリップ・ルプラさん。

 ジョスパン首相はかつてこう強調しました。「雇用(創出)は政府の最優先課題だ」「雇用とはそれぞれの人の尊厳であり、自由だからだ」(九九年七月)

 第一法の成立以来、一年半で約十四万人の雇用が増加ないし維持されました。同法の推進役を果たしているオブリ雇用・連帯相は今後一年ごとに十万人の雇用が創出されるとの見通しを明らかにしています。

 しかし、週三十五時間労働の実施の仕方は労資の合意で決められることになっており、経営者側は自己に有利になるよう交渉を遅らせる戦略をとっています。

 昨年末で、「三十五時間」が二〇〇〇年一月から適用される二十人超の九万企業のうち八六%で合意が未成立でした。真に雇用を増やし、労働条件を改善するための労働者の熱いたたかいがヤマ場を迎えようとしています。

(つづく)


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