雇用を守る日本と世界(6)

第一部欧州から日本を見る

2000年1月8日「しんぶん赤旗」より転載


多国籍企業規制、国際連帯広げて

 ちょうど二年前の一九九八年一月末、自動車産業で働く労働者・労働組合が一堂に会して「世界自動車産業労働者・労働組合会議」が、パリにあるフランス労働総同盟(CGT)本部で開かれました。CGT金属労働者連盟がよびかけたもので、日本からもトヨタや日産などの六人の労働者が参加しました。

 活発で熱心な討論の合間のコーヒーブレークで突然、ルノーの労働者の一人がトヨタ労働者に血相を変えて、くってかかりました。

 「かんばん方式」に怒り

 「会社はトヨタのかんばん方式を勉強し、導入しようとしている。あれは経営者がもうけるためのもので、われわれにはなんの利益もない。きみはそれを認めているのか」

 相手の激しい勢いにびっくりしたトヨタの労働者はゆっくりと声を大にいいました。

 「ぼくは断じて認めない。きみの考えに賛成だ」

 それを聞いたルノーの労働者は一転して大喜び。参加者をかき分け、トヨタの労働者とがっちり握手を交わしました。

 「日本の大企業の横暴が海外に”輸出”され、世界の働く仲間を苦しめている」。参加した日本の労働者はつくづく痛感しました。

 ルノーの労資共同の代表組織、中央企業委員会のメンバーでCGT代表のフィリップ・マルティネーズ氏は、トヨタのような日本の大企業のやり方をヨーロッパの大企業がまねていると告発します。

 「ルノーではこの十五年、日本の資本主義がバイブルとされ、日本の労働条件が持ち込まれました。その結果、労働条件が悪くなっている」。在職死亡は九八年に百四十二人、九年間では千百十八人が亡くなったといいます。

 ドイツの労働者や財界からは、なんどか「アメリカ流」ということばが突いてでました。グローバル化や国際競争の名で、日本では労働者を保護するための労働諸法制を次々と改悪し、正規労働者をパートなどの不安定雇用労働者におきかえ、いっそうの大もうけ体制をすすめる「アメリカ流」のリストラ・解雇の流れが大きくなっています。

 これにたいしヨーロッパではリストラ・解雇を規制するいくつかの欧州連合(EU)指令をつくりだすまでに二十数年もの議論を積み重ね、欧州規模での大企業連合との長期のたたかいを通じて働くルールを確立してきました。

 いま欧州でもリストラが進行し、これにたいする労働者の激しいたたかいがくり広げられています。たたかいのよりどころとなっているのが、その”ルール”です。

 労働組合の存在意義

 ドイツ商業・銀行・保険労組(HBV)のベルリン地区委員長を務めるゲート・ジュリアスさんは「グローバル化のもとで、雇用が削減され、人減らしが促進されているいまこそ労働組合は本来の役割に戻るべきだ」と強調します。

 金属産業労組(IGメタル)のシーメンス・ベルリン工場支部元委員長のレイナー・フォルラートさんも「各国の大企業が海を越えて多国籍企業化をすすめている。労働者が国際的なつながり、連帯を強め、多国籍企業の規制をすすめていくことは大切だ。ルノーの横暴に苦しめられている日産の労働者たちによろしく伝えてほしい」と語ります。

 「雇用を守る」という労働組合の存在が問われる課題にどう立ち向かっていくのか、国際的にみても日本の労働者のたたかいがいま、正念場を迎えています。

(第一部おわり)

 (第一部の取材・執筆は、名越正治・大衆運動部、田中靖宏=ロンドン、坂本秀典=ベルリン、伴安弘=パリの各記者が担当しました)


 かんばん方式 必要なときに、必要な物を、必要なだけ生産するトヨタ自動車があみだした方式。在庫を持たず、下請けに決めた時間に部品を届けさせます。労働者には、生産に合わせて長時間労働させたり、大量に異動させています。


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