このままでは投票の秘密が守れないー労働組合の役員選挙への「電子投票」導入は時期尚早

立候補の自由、投票の秘密が守られる

  公正・公平で民主的な開かれた選挙を   

  労組役員選挙についてのNEC労働者懇談会の提言     2002年5月    

 

 NEC労組では毎年6月に執行委員選挙を行っています。しかし、その内容は、会社の選挙への介入や選挙の非民主的な運営など、公選法に照らしても、恥ずかしくなるような非民主的なやり方がまかり通っています。

 労組役選への会社介入のねらいは、会社施策を受け入れやすい労組の確立であり、組合員の立場に立った組合の阻止、排除にあります。

 従って、労組の役員選挙は、「労働組合法」の精神に立った「労働者が自主的に自立して組織する労働組合」を実現できるかどうかが問われており、会社と対等で労働者の立場に立った労働組合をつくるためには、今のやり方を改め、公正・公平で民主的な開かれた選挙を行うことが必要になっています。

 さらに、問題なのは、これまでの労組役選を更にひどくする恐れのある「電子投票」が執行委員選挙などでも検討されていることです。

 そこで現在のNEC労組の役員選挙の実態とその改善策について述べ、次に「電子投票」の問題点を明らかにし、その電子投票に対する提言をまとめました。職場のみなさんの活発な討論をお願いします。 

 

1,現在の労組役員選挙の問題点と改善策

 @NECの組合役員選挙ではこんなにひどいことが

  6月に行われるNEC労組の各地の執行委員選挙などでは、以下のように非民主的で不正なことが毎年のように繰り返されています。

  (1)立候補

   現組合執行部への批判者の締め出しのため、すべての選挙区で10人の推薦人を必要とするように選挙規定が変えられた。そのことにより、自由な立候補が著しく困難になり、立候補できなくなった選挙区が出ている。

 

  (2)選挙公報

    主張の掲載字数が非常に少ない(350字程度)ため、政策などの主張が部分的にしか組合員に伝えられない。

 

  (3)選挙運動

   昼休みなどに限って職場のみで訴えることができたが、昨年から選挙広報のみとなり、候補者の主張や政策を直接組合員に訴える機会がなくなった。組合員にとっても直接立候補者から政策などの訴えを聞く機会がなくなり、政策論議や組合のあり方などを考える機会を制限された。

 

  4)選挙に対する会社の干渉

    選挙に対する会社側の干渉が各地で行われ、主なものでも今まで以下のようなことが行われてきた。

   ・非組合員である管理職が、組合員に対して労組の役員選挙に出るよう説得した。

   ・部長が新入社員を会議室に集め、「この候補者には入れるな」と特定の候補者を当選させないように指示を行った。

   ・選挙運動(演説)に勤労部員がついて回り、選挙運動を干渉した。

   ・「だれがだれに入れたか判るようになっている」という噂が会社側から流された。

 

  (5)投票時

   ・不在者投票への制限がないため、会社管理職などからの組織的動員が行われやすくなっている。

   ・投票所がなく、選挙管理委員が投票箱(袋)を持って回るところが多い。これでは投票の秘密が守られなく、投票の自由が保障されない。

   ・出向先では投票用紙を袋で回収し、その直後、投票内容を選挙管理委員に見られていた。

   ・投票の動員を部長が行った

 

  (6)開票

    立候補者が、再三、選管に申し入れてもどこの選挙区でも立候補者またはその代理人の「開票立ち会い」が認められていない。従って開票の際、改竄などが行われている恐れがある。

 

 このようにNEC労組の役員選挙は、選挙方法の一定の基準となる公職選挙法に照らしても明らかに異常であり、非民主的ではないでしょうか。まして「団結が命」の労働組合は、最大限に民主的に運営されることが必要であり、組合の代表者を決める役員選挙こそ、その中でも一番民主的に運営されることが大切です。従って労組の役員選挙は、国や地方自治体の選挙のやり方(公職選挙法)をベースにし、それよりもっと民主的な選挙方法とすべきです。

 

 

 A投票の秘密が厳密に守られ、組合員の意思が選挙に反映されるよう労組役員選挙の抜本的改善を

  投票の秘密が厳密に守られ、組合員の意思が選挙に反映されるようにするためには、以下のように組合役員選挙を改善することが必要です。

 (1)立候補

   組合員であればだれでも立候補できることは組合員一人一人の当然の権利です。従って、選挙規程から推薦人条項をなくし、推薦人は不要とする。

  立候補への会社の干渉や事実上の「会社推薦」の立候補については、「労働組合法」の目的の「自主的な組織」の要件に反するため、厳しく排除する。

 

 (2)選挙運動

   立候補者が役員になって行いたい政策や組合運営などについて、組合員に正しく伝えるため、選挙運動を最大限認める。会社門前の政策宣伝・配布や食堂、職場など制限を設けず、どこででも選挙政策等を訴えることができるようにする。

   選挙公約の主張は、正確に組合員に知らせるため、十分な字数とする。(A4用紙裏表1枚程度

  以上)また、組合掲示板への政策ポスターの掲示をできるようにする。

   選挙運動期間は各候補者の政策が十分浸透するように、選挙区の大きさなどにより十分な期間(2週間以上)とする。

   選挙への会社の介入、干渉をさせないように徹底する。特に新入社員などへの会社管理職の投票の指示は行わないように厳しく監視する。

 

 (3)投票

   不在者投票は、投票日出張等により不在でどうしても投票できない人に限ることにより、会社の介入が行えないようにする。(無原則な不在者投票は、会社介入の機会となる。)

   投票は衝立つきの投票所を設け、投票の秘密が厳密に守られるようにする。従って、職場での投票用紙回収などは、行わないようにする。

   会社管理職による投票動員は排除し、選挙は厳密に選挙管理委員によって実施する。

 

 (4)開票

   開票に立ち会うのは、正しく開票が行われているか確認する作業であり、立候補者の当然の権利です。立候補者またはその代理人の立ち会いのもと、厳正に開票を行う。

 

2,電子投票の問題点と提言

 今春闘のスト権投票では、はじめて職場の各自のパソコンを端末として「電子投票」が取り入れられた支部がありました。これは組合員にはいっさい計らず導入されました。(こういうやり方が先ず非民主的です。) そして今度は組合役員選挙についても電子投票が検討され、一部の支部では実施が決定されています。利便性だけを追求すれば電子投票は有効な投票方法の一つであり、今後、検討が進むと考えられます。しかし、電子投票は公選法でもまだ、一部限られた部分に認められたに過ぎず(平成14年2月に施行された「電子投票特例法」は、地方公共団体の議会の議員及び長の選挙に限られている)、セキュリティや投票の秘密の問題が解決しないため、投票は電話・通信回線の使用はできないことになっています。これは組合の選挙の場合も同様のことがいえると考えます。

 東京都電子投票制度検討研究会報告(2002年3月)では「電子投票制度の円滑な導入に向けた提言」のなかで、電子投票の課題として以下のように述べています。

 「・・もとより、投票データの送信に関するセキュリティ対策は重要であり、厳格に対応する必要があるが、システムの設計方法によっては電気通信回線でオンラインすることにより、データの確実な送信も可能になることも考えられる。このため、オンラインによりデータ送信の安全性や経費面を検証しながら、これを可能とする道を拓くための法整備が求められるとして安全性の確立とそれを前提にした法整備が、電気通信回線の利用の条件であることを記述しています。

 また、技術基準の設定とシステム認証の実施では、選挙は公職選挙法に基づき、統一的基準の下に、公平公正に執行することを求められており、選挙の管理執行に瑕疵がある場合は、選挙無効に発展することとなる。電子投票を導入した場合に、電子投票機の機能が法律の規定している具備すべき条件に合致し、一定の基準を満たしているかどうかは、選挙を公平に執行し、有権者の信頼を確保するために重要なことであり、そのための技術標準及びその標準を満たしていることを検査するシステム認証制度の構築が不可欠である。技術標準は国において認定し、またシステム認証についても国、地方公共団体、企業代表により構成された公的機関が行い、全国的に通用する認証制度とすることが求められている。と述べ、電子投票機やそのシステムにより公平・公正に選挙が行われるかどうかシステム認証制度が必要であり、このシステム認証は公的機関が行うことを提言しています。これらの考え方は労働組合の選挙についても同様に適用するべきではないでしょうか。

 

 NEC労組が実施を検討している「電子投票」は、現状では以下のような問題があると考えます。

 

 @NEC労組が計画する「電子投票」の問題点 −投票の秘密が守られない恐れが強い−

  (1)ソフト開発の段階 

     NEC系列の会社によるソフト開発は、その段階で誰がどの候補者に入れたか判る仕組み(ソフト)を密かに会社等の意向でつくり込まれる(または既に作り込まれている)恐れがある。

    またソフト開発担当がそのような仕組みを作り込んだ場合、第三者がその不正なツールを見つけることができるかどうか非常に疑問。(少なくとも一般組合員には不可能)

    労組執行部の説明では「システムはNEXSで開発・運用しており、審査認定を行うのはJISAという機関で、これに基づいてJIPDC(日本情報処理開発協会)がプライバシーマークを契約に基づき付与している」旨のことをいっていますが、JISA(情報サービス産業協会)は情報サービス業の経営者団体であり、公的な第三者機関であるか疑わしいし、システム開発、運用を行っているのはNEXSというNEC関連会社であり、NEC等の意図で不正なツールが組み込まれている危険性も懸念される。

  (2)投票

   ・投票を他の人にみられる恐れがある

    組合が実施しようとしている電子投票は、投票所がなく、個人に与えられた会社のPCを使用することを前提にしていると考えられ、この場合、投票行動を上司など他人に見られる恐れがあり、投票の秘密は守られない。

   ・「なりすまし」投票の心配がある

    投票がスト権投票のように個人に与えられたPCにより入力すると、本当に本人が投票したかどうかの確認が難しく、パスワード等が判れば本人でない人の「なりすまして」投票が可能である。

    また、2重投票防止などの仕組みが備わっているかも疑問。

   ・会社の盗聴の危険性あり!

    特に通信回線を使用する場合、会社のサーバのログ機能に、個人の情報が記録されている(下の()参照)恐れがある。従って、会社がその気になれば、すべての組合員の投票状況が取り出す危険性がある。たとえ暗号化しても集計するサーバから読み出せるように仕組みを付加し、盗聴される恐れもある。

    (注)(4月22日付けの「毎日」夕刊には「社内インターネットの私的利用について、3分の1以上の企業が防止策を講じ、そのうち半数近くがモニタリング(監視)を実施していることが、厚生労働省の外郭団体「日本労働研究機構」の調査で判った」と報じている。

     つまり会社の機器や回線を使用することは個人のメールの内容、特に誰が誰に投票したかは会社に筒抜けになると危険性があると考えた方がよい。

     そして始末が悪いのは、会社などが盗聴したとしてもなにも証拠が残らないことである。

  

  (3)集計、開票

   ・改竄がきわめて容易で、その証拠がなにも残らない

     集計を行うソフトが投票者個々人の投票をちゃんとカウントする補償はあるのか不明。

     またソフトにあらかじめ集計を故意に操作できる機能を盛り込むことも可能であり、そうした場合、集計結果の改竄が容易であり、その様な行為の証拠は何も残らない。そのような不正なソフトが組み込まれない保障はあるのか、また組み込まれたかどうかの調査や監査ができるのか不明。

     従来の投票の場合も立候補者または代理人の「開票立ち会い」は行われず、「改竄が行われても確認できない」といわれていた。それでも紙による投票の場合は、改竄の調査は(行おうとすれば)、後で投票用紙を調査する(書き直しがあるかなど)ことによりある程度可能である。しかし電子投票の場合は改竄が行われても何の証拠もなく、確認が不可能。特に一方が僅差で負けているような場合、得票数の改竄が行われない保障はどこにもない。

     また、通信回線を使用する場合は、集計や記憶の途中で回線異常などにより、消滅し、集計漏れが生ずる恐れもある。これまでの労組選挙でも会社はさまざまな介入を行っていたわけですから、「電子投票」ではもっと巧妙に介入してくることは充分考えられます。

 

結論として、現状の環境、各自のPCを「投票機」として行う「電子投票」は、投票の自由および投票の秘密が守れず、また投票結果の改竄も容易であることから導入を行うことはできないと考えます。

 

 

 ただし、電子投票は今後、国や地方自治体でも導入の検討がすすむと思われ、その中でこれまでの問題も順次解決していくものと思われます。従って、公職選挙法などの動向もみながら、特に労働組合の役員選挙の場合を考慮すると以下のような問題の解決が必要と考えます。尚、その場合も、組合役員選挙は組合民主主義の根幹にかかわる問題ですから、組合員全員の納得と同意を前提に十分慎重に検討すべきであると考えます。

 

A電子投票についての提言電子投票の導入は完全に投票の秘密とセキュリティが守られることが大前提 

 (1)電子投票システム開発・運用

   ・システム仕様は、計画段階から、詳細設計、決定まで、セキュリティ対策を含めてすべて組合員に公開する。

   ・システム開発はNECと関係のない第三者によって行うことが望ましいが、NEC系列のソフト会社を使う場合は、NECの意向(または暗黙の強制)などにより、不正なツールが組み込まれないようにするため、公的機関により監査を受けながら開発をすすめる。システムは、監査が容易なようにまた不正なツールが組み込めないよう機能別にモジュール分割して開発する。

   ・開発したシステムは、公的な監査機関にて監査し、公的認証を取得する。(公的監査および認

    証機関がない場合は、時期尚早であり、導入は行わない。)
   ・システム運用は、情報の漏洩や改竄を行わないように規則を決め、公的機関の認証を取得した業者等によって行う。

 (2)投票

   ・現状では通信回線を使用した投票は、セキュリティに問題があり、投票の秘密が守られないため、行わない。

   ・公職選挙法などで公的に通信回線使用が認められた場合、法律で決まった投票の秘密及びセキュリティ対策を組み込み、慎重に導入を検討する。

    個人の机上にあるPCは、他の人から投票が見られる恐れがあるため、公職選挙法に準じた投票所および専用の電子投票機にて投票する。

    尚、便宜的に会社の通信回線(イントラネット)を使用するために「会社は盗聴は行わない」との確約を選管が会社からとったとしても、盗聴(または運用上盗聴される)の仕掛けは可能であり、投票後、会社が盗聴を行わなかったことの確証をとることはきわめて困難であり、やはり会社回線・設備を使用することは危険である。(「会社はだれがだれに投票したか判る」との噂が流されたら、そこで、もう公平な選挙は期待できないことになり、実質的に選挙は無効になると思われる。)

   ・選挙への会社等の介入を極力排除するため、投票はある決まった時間に一斉に行う。

   ・投票機械及び回線の障害などないように無停電対策等インフラ整備が必要。

 (3)集計、開票

   ・集計は一括して行い、各投票所などの途中経過内容は、投票率を除き、見ることができないようにする。(集計の途中経過の状況を不正に使用されないため)

   ・開票は、立候補者またはその代理人の立ち会いのもと、実施する。その際、開票状況がよくわかり、不正の入り込む余地がないように、開票操作を含め、すべての操作を立ち会い者の監視のもとに行う。投票結果は、規則を決め、厳重に保管・管理する。

 

  (参考文献)

  ・東京都電子投票制度検討研究会報告書(平成14年3月)

  ・電子投票システムに関する技術的条件及び解説 平成14 年2月

                         電子機器利用による選挙システム研究会

                                      以   上