NEC技術者の未来が危ない!

NECマイクロシステムで「偽装出向型!?」リストラ発生

 2008年5月6日 NEC&関連労働者ネットワーク

T.はじめに

 NECエレクトロニクスグループのリストラも、この4月から新たな段階に入って来ました。

さて、その中で、子会社のNECマイクロシステム(以下、NMSと略記)において、新しいタイプの

リストラが行われつつあることが判ってきました。それは、社内技術者を「メイテック」と言う人材派遣

会社に出向させ、さらにそこから別会社へ派遣するというものです。「出向+派遣」あるいは「派遣を

前提とした出向」の中身には、違法くさいと思われる要素がたくさん詰まっています。NEC&関連労

働者ネットワークは、そうした実態を明らかにし、労働組合である電機ユニオン

との協力体制のもと、リストラに対抗すべく活動していきます。

 

U.リストラの詳細

早期退職制度の余韻冷めやらぬ4月上旬、NMSの技術者約20名(担当〜役割グレード)に対し、

会社は株式会社メイテックへの出向を通告しました。メイテックとは、東京と名古屋に本社のある技術

系派遣会社で、全国各地に事務所を展開し、技術者約6000人を抱える大企業です。しかし、メイテッ

クの事務所で行われるのは技術者のための教育・セミナーであって、技術系の実務ではありません。

そして、ここで研修プログラムを終えた社員は、他の技術系会社にメイテックから「派遣」され、場合

によってはそのまま「転籍」となります。

この「派遣(アウトソーシング)」、「転籍(アウトプレーシング)」の頭文字を取り、メイテックでは上の

研修のことを「O&O研修(オー・アンド・オー研修)」と呼んでいます。実は「O&O研修」というのは、

メイテックの子会社である日本DBM(ドレーク・ビーム・モリン)社が持ち込んだ手法の様です。では

日本DBMとはどんな会社でしょうか?それを知る手がかりの一つは、このNEC&関連労働者ネット

ワークのホームページ内にあります。NECエレクトロニクスのリストラのページに、退職強要マニュアル

「部長の心得」を掲載しています。実はこのマニュアル

を作成したのが日本DBMなのです。つまりメイテックは、リストラコンサルタント会社として名を馳せて

いた日本DBM社を買収し、自社の傘下に置くことで、技術者リストラ請負人としての基盤を確立した

のだと考えられます。

メイテックが日本DBMを買収したのが2004年1月で、その直後の2月には、早速日本IBM社の

リストラを請け負っています。このとき、日本IBM社は野洲事業所(滋賀県)の社員21名に対し、今回

のNMSとまったく同様の出向命令を出しています。労働組合であるJMIU日本IBM支部野洲分会は、

二重派遣の疑いが濃厚であるこの処置の撤回を会社に要求し、組合員17名の出向取り消しを勝ち

取りました。

   JMIU日本IBM支部野洲分会機関紙「かいな」2004年3月26日号

   

               〃         「かいな」 2004年4月22日号

  

この日本IBMのケースからも推定できますように、NMSは対象となっている技術者をメイテックへ

出向させたうえで、最終的にはメイテックから派遣先された先の企業へ転籍させたい意図があるもの

と考えられます。しかし転籍=NMSの解雇ですから、通常は「解雇4要件」が満たされている必要が

あります。つまりこれを出向にすり替えて、解雇4要件をちょろまかそうとするのであれば、ここに第一

の偽装があると見ます。そして第二の偽装は、本当は派遣を出向と言っているのではないのか?と

言う点です。これらの詳細は次章で見ていくとしましょう。

 

V.リストラへの対抗策

NEC&関連労働者ネットワークは、対象者のメイテック出向撤回を求めます。特に次の点を軸に、

違法行為が発生していないかなど、実態を追求して行きます。

 

@そもそも本当に出向なのか?

厚生労働省は、2008年2月に「労働者派遣事業関係業務取扱要領」を発行しています。

出向については、この文書の8〜10頁にかけて主に記述されています。他社で仕事をする場合、

それが出向なのか派遣なのかは、「業として行われているかどうか」がポイントになります。業として

行われるとは、一定の目的(営利目的など)のために反復して行われることを言います。つまり、今回

のメイテック出向によってNMSが何某かの経済的利益をメイテックから得ていれば、派遣である、

つまり「偽装出向」であると言えるでしょう。

 

Aでは派遣(偽装出向)だった場合どうなるか?

NMSの就業規則には、「派遣」と言う言葉はありません。つまりこれは会社の約束違反であり、

決して認められるものではありません。 また、仮に就業規則で認められていたとしても、そもそも

NMSが労働者派遣事業主でない限り、職業安定法44条に違反することになります。

 さらに、メイテックから別の会社に派遣されるとなれば、今度は派遣先からの派遣(二重派遣)を

禁じる労働者派遣法に違反することになります。

 

B実は整理解雇だった場合どうなるか?

通常の出向は「経営指導・技術指導の実施」「職業能力開発」「企業グループ内の人事交流」など

を目的に行われます。したがって出向先も業務上深い関連のある企業と言うことになります。ところが、

今回のメイテックの場合、NMSとは業務上ほとんど関連の無い派遣専門会社であるところに疑問が

生じます。もし出向が人員整理目的であれば、それは事実上整理解雇だと言えます。その場合、当然

ながら以下の解雇4要件を満たしている必要があります。

 

  1、企業の維持存続が危殆に瀕する程度に差し迫った経営上の必要性があること。

  2、解雇以外のより苦痛の少ない方策によって余剰労働力を吸収する努力をしたこと。

    (解雇回避努力義務)

  3、整理基準の客観的合理性と人選の仕方の妥当性。

  4、労働組合、労働者の納得が得られるよう誠意をもって協議説得すること。

 

今年の春、三十余名の新人を迎えたNMSに、上記4要件を満たすほどの差し迫った事情があった

とは到底思えません。

 

C契約はどうなっているのか?

本問題を考えていくうえで、各種の契約を確認していくべきでしょう。

 

1.NMSと社員の間の「出向協定書」はどうなっているか?

   出向期間が明記されていなければ、整理解雇目的である可能性が濃厚です。

 

2.メイテックとの雇用契約はどうなっているか?

メイテックが出向者を他社へ派遣するためには、出向者とメイテックとの間に雇用関係がある

ことが前提です。さもないと職業安定法44条に対する違反となります。メイテックとの雇用契約

が、NMSとの雇用契約と矛盾していないか、労働条件の切り下げが無いかどうかなど確認が

必要と思います。

 

3.NMSとメイテックとの契約はどうなっているか?

出向に際しては、会社間でも出向契約書の締結が必要です。ここでも出向期間終了後の処置

などがどうなっているかなど確認が必要でしょう。もし会社が契約内容を開示しなければ、裏で

胡散臭い事が行われていると疑った方が良さそうです。

 

4.派遣先企業との契約はどうなるのか?

当然のことながら、出向者は派遣先企業の指揮命令下に入ることになります。これがNMS

   の感知しないところで行われているとすれば問題です。

そもそも出向にしても派遣にしても、法律は「元の企業」、「行き先の企業」、「当人」の3者間

の関係を想定して作られています。今回のように、「NMS」、「メイテック」。「派遣先企業」、それ

に「当人」の4者間の関係と言うのは、それだけで違法くさいと言わざるを得ません。

 

5.NMS就業規則について

NMSの就業規則には、確かに「出向」と言う文言があります。しかし、就業規則にあれば、

どんな出向でも命ずることが出来る訳ではありません。とくに人材派遣会社への出向などは、

大方の社員が事前に承知している範囲を超えており、無効である疑いがあります。

 

今回のような「派遣会社への出向」と言うケースについては、龍谷大学・脇田滋教授のホームペ

ージに詳細な解説が載っています。

あわせて参照してください。

 

W.おわりに

NMSは、半導体の回路設計、レイアウト設計(半導体をシリコン上に形成するにあたり、その回路

や素子の印刷パターンを設計する)、テスト設計を中心に、半導体設計の核になる技術領域を担当し

ており、NECエレクトロニクスグループにおいては、いはば「虎の子」の技術者を結集した会社です。

今回のリストラは、そんなNMSの優秀な技術者達をターゲットに展開されています。そしてその中には、

先の早期退職優遇制度で退職強要を跳ね返した者も多数含まれており、半ば嫌がらせ目的の報復

人事ではないかと疑われます。

しかし、それだけではありません。日本IBMなどの他社の事例も知るにおよび、これはNECグルー

プとして今までに無い新しいタイプのリストラ手法が導入されようとしているのであり、さながらNMSは

その実験台になっているのではないかとの見解に至りました。もしここで「偽装出向型リストラ」が罷り

通ってしまうことになれば、これから将来NECグループの全技術者が、同様のリストラに見舞われる恐

れがあると思います。会社がリストラ対象職場に指定したとたん、優秀な技術者が派遣会社に投げ捨て

られる事態が常態化することになれば、もはやNEC技術者の未来は、見通しの利かない暗澹たるもの

になっていくでしょう。もちろんそんなことを許してはいけません。

 

もし同様のリストラの情報がありましたら、リストラ掲示版へお願いします。

また、現に偽装出向などのリストラに遭われている方は、リストラ110番へご連絡をお願いします。

 

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