NECエレクトロニクスのリストラ
法律的側面からの考察

NEC&関連労働者ネットワークの見解

2008年2月17日 NEC&関連労働者ネットワーク


−はじめに−

 

  以下の文章は、今回のリストラによって退職や遠地への転勤といった状況に直面している方を、特に意識し
 て書きました。具体的には、次のようなことでお悩みの方に、私たちを守る法律がいろいろと存在している事
 を知って頂くのが目的です。

 

テキスト ボックス: 1)個人面接で「あなたの働く場所はもうない」と言われてしまった。<解雇>
2)個人面接で「みんな我慢して地方工場への転籍を承諾している。君だけわがままを言われては困る。
 それとも転籍できない事情が何かあるのか。」と言われてしまった。<解雇>
3)会社は私に勤務場所を見つけてくれるだろうか。
もし見つからなければ辞めなくてはいけないのだろうか。<解雇>
4)NEC山形に転籍しても、そこでまたリストラに遭うのではないだろうか。<転籍>
5)NEC山形に転籍して賃金が下がるのは納得が行かない。<転籍>
6)夫婦共働きをしているのに、夫が遠地に転勤になりそうだ。仮に夫には単身赴任をしてもらうとしても、残った私は実質母子家庭になってしまう。仕事を続けるのはまず無理ではないだろうか。<転勤>
7)今も育児短縮勤務を利用している。たとえ近地でも転勤は無理。<転勤>
8)家族の介護でとても遠地への転勤など出来ない。<転勤>
9)試作開発ラインの山形集結という方針自体に納得が行かない。やり方が間違っている。こんな理不尽な転勤にはとても応じられない。<転勤>
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  今回の会社発表のリストラによって最も大きな影響を受けるのは、相模原から遠地への異動対
 象となって
いる職場(主にNFAS、先端デバイス、プロセス技術)に勤める方々でしょう。
 勤務場所の変更に際しては、従業員に対する配慮が最大限なされていることが重要で、ただ単
 に法律に違反しなければいいというものではありません。しかしここでは、法律面から妥当性
 を見ていくことで、会社が果たすべき義務を明らかにして行きたいと思います。

  「仕方が無い」と諦める前に、読んでいただければと思います。

  また、議論を展開する上で、異動のレベルを重要な順に3つのパターンに場合分けしました。

 

   (1)整理解雇となる場合

   (2)転籍の場合

   (3)転勤の場合

 

  これは、それぞれの場合で適用される法律が変わってくるからです。それでは各々について
 順番に見ていく
としましょう。

 

(1)整理解雇となる場合

 

@整理解雇の4要件

  企業が経営を再建するうえで、やむを得ず人員整理を行わなければならない場合、そのため
 に実施する解雇
「整理解雇」と呼んでいます。整理解雇は従業員に帰するべき非が無いため
 、以下の4要件を満たさなけれ
ばならないとされています。(※1)(※2)

    要件1:人員整理の必要性
      
要件2:解雇回避努力義務の履行
       要件3:被解雇者選定の合理性
      
要件4:手続の妥当性

A整理解雇となる場合

  では、今回のリストラにあたって、もし整理解雇と解釈される事態が起き得るとすれば、そ
 れはどのような
場合でしょうか。例えば次のような場合があると予想されます。

   A.職場を失う社員に対し、会社が適当な働き場所を社内に確保できない場合。
      B.早期退職優遇制度において、特定個人に対し退職勧奨が行われた場合。

  まずA.について。

  今回のリストラがNFASをターゲットにしたものであると考えられることは別ページで書
 きました。NFASを解散し製造ラインを閉鎖するため、現在の職場を失う社員がいます。会
 社(ここで言う会社とはNFAS社であり、NECエレクトロニクス社である)は彼らに対し
 、新たな職場を確保する責任があるわけですが、
ついに見つからないというケースも出てくる
 かも知れません。この場合、とくに
NECグループ外への転籍が
必要になれば、これは「整
 理解雇」である
と解釈できます。
 (会社はこの様な社員を、早期退職優遇制度によって「自己都合退職」と言う建前で処置した
 がっている様ですが、本質は整理解雇に属すると考えます。)

  次にB.について言いますと、早期退職優遇制度は表向き40歳以上のNECグループ社員全
 員に適用する
ものですが、実際は職場によって面接の回数が1回で済んでしまうところ、複数
 回行われるところなど差があると聞きます。また個人によっても、面接内容が異なっているよ
 うです。特定職場や個人をターゲットに退職へのいざないが行われるのであれば、これも実質
 は整理解雇であると考えられます。

B解雇4要件との比較検証

  さて、上記A.やB.その他の理由で整理解雇と呼べる事態が発生した場合には、上で述べ
 た解雇4要件と
の比較検証が必要になってきます。以下、各要件について検証してみます。

   検証1:「人員整理の必要性」について

  NECエレクトロニクスは、2007年度2Q、3Qと黒字でした。万全とは言いがたいも
 のの、人員削減を行わなければならない切羽詰った状況であるとは言えないと思われます。む
 しろNECエレクトロニクス全体では、人員不足感や繁忙感が慢性化している職場がたくさん
 ありますので、人員削減の妥当性については、相当慎重であるべきと思います。

  検証2:「解雇回避努力義務の履行」について

  今回の場合、解雇回避努力とは、何よりもまず新たな働き場所の確保にどれだけまじめに
 取り組んだか
と言うことでしょう。人員不足感の強い職場を中心に、働ける場所があるかどう
 かをきちんと検証する必要があるでしょう。各職場の実情を本当に知っているのはチームマネ
 ージャー(課長)や主任クラスですから、検証する上でも彼らの意見が反映されなくてはなり
 ません。グループマネージャー(部長)にヒアリングをかけるだけでは不十分と言えましょう。

  検証3:「被解雇者選定の合理性」について

  リストラターゲットの職場では、社員の何%、役割グレード(管理職)の何%(労働組合に守
 られていない役割グレードについても注目しておくべきでしょう)を退職させると言った「ノ
 ルマ」
が課されている可能性があります。日ごろ上司と折り合いの悪い従業員が狙われれば問題
 です。

  検証4:「手続の妥当性」について

  早期退職優遇制度の導入にあたり、退職への誘導は行わない事が労使間で確認されてます。
 労働組合員に対し、もしB.のケースが現実にあれば、手続きの妥当性を欠くと言えるでしょう。

 

(2)転籍の場合

 

@転籍には本人の同意が必要

  転籍は現在の会社と結んだ雇用契約の解消ですから、あくまで本人の同意が必要となります
 。重要なのは、転籍を同意しない理由として、例えば「重病の家族や高齢者の介護が出来なく
 なる」などと言った
”やむをえ
ない事情”は必要ないことです。したがって、NFAS社員は
 NEC山形(九州、関西)行きを勧められても、行きたくなければ「行かない」と言う事は可能
 です。仮に面接で「何か行けない理由はあるか?」と聞かれても、何か特別な理由が無ければま
 ずいんじゃないかと心配する必要はありません。

  (1)で述べたように、地方日電への転籍を拒否した場合でも、働く場所を確保する義務は会
 社にあります。もし「異動出来ないと働く場所は無い」等の発言が会社側からあれば、これは非
 常に問題です。(※3)この場合は、言われる通り本当に雇用の場所が確保されなければ整理解
 雇になりますから、前章で述べた解雇の4要件についての検証が必要と言うことになります。

 

A不利な転籍には条件をつける

  とはいえ、現実に試作ラインをNEC山形に移す以上、最終的には多くの方が山形行きになる
 ことも想像されます。しかし、そもそも技術者やスタッフ込みで約1500名のNEC山形に、
 製造職300名が合流するならば、製造現場の人員が過剰気味になることは、現時点で想像がつ
 きます。また、今後の中期計画としては、32nm以降の先端デバイスは東芝の工場で流すこと
 が予定されており、NEC山形のラインは次第に縮小さ
れていく事も予見できます。つまりNE
 C山形において遅かれ早かれ整理解雇が実施される可能性が高いと推
定できます。そこで、
 山形行きを決められた方に対しては以下の配慮がなされることを期待します。

   1.もし将来NEC山形が倒産したときには、すでに出向している社員も含めて、NECエレ
    クトロニクスが全員を引き取る。

     2.NEC山形内で整理解雇の必要性が生じた場合も上記処置をとる。その際にはNECエレ
    クトロニクス復帰を望む社員を優先的に引き取る。

   3.NEC山形転籍者はNEC山形の賃金体系になるため、退職金を割り増しにしてNEC山
    形へ引継ぐことで生涯賃金の格差を無くす。

  ここまでは他社(ボッシュ)の例から可能であると考えられます。(※4)

  もちろん無理な転籍をさせないことが第一である事は言うまでもありません。しかし逆に、あ
 くまで遠地転勤を拒否して相模原での勤務を望む場合、製造ラインそのものがありませんから、
 製造関係の方の職種の変更については、ある程度容認せざるを得ないと思われます。

 

(3)転勤の場合

 

@転勤命令の妥当性

  会社の転勤命令については、次の場合には権利の濫用になるとされています。

   1.業務上の必要性が存しない場合。
    
2.業務上の必要性が存する場合であっても、その転勤命令が他の不当な動機や目的をも
     ってなされたものである場合。
     3.労働者に対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合

 

A育児・介護の責任から転勤できない場合

  この中で一番活用できそうなのは”3.”であると思います。何をもって通常甘受すべき程度
 を著しく超え
る不利益と断定するかについては、個々の状況に則した判断が必要になると思われ
 ますが、とくに育児や介護
に関しては、育児介護休業法も助けになります。同法26条によ
 れば、
「転勤に際しては育児や介護の状況に
配慮すべき義務がある」と定められています。
 たとえ相模原→玉川のような近地の転勤であっても、それによって育児や介護が出来なくなり、
 退職しなくてはならない様な事態に至るのであれば、そのような転勤を回避する義務が会社には
 あると解釈できます。

  なお、同法に関しては、夫婦共働きの「夫」を遠地へ転勤させようとして無効となった
 期的な判例があります。(※5) 夫婦共働きをされている方の中には、今回のリストラによっ
 て仕事を続けられないかも知れないとお悩みの方もいらっしゃるかも知れません。是非参考にし
 てください。とにかくまずは転勤を拒否したいという姿勢を示す事も大切な様です。

   それから、重い病気の家族や常に介護の必要な高齢者などを抱える場合には、その程度に
 よって転勤を拒否
するに足る事情があると認められた例もあります。(※6) 03年にネス
 レジャパンホールディング社は、兵庫県の姫路工場のギフトボックス係61名全員に対し、姫路
 工場における同業務の廃止を理由に、茨城県の霞ヶ浦工場へ転勤を命じました。また、転勤に応
 じられない者が退職する場合には、特別退職金支給の優遇措
置を提示しました。しかし原告は妻
 の病気等を理由に転勤を拒否し認められています。
職場まるごとの転勤で
あっても、相当の理
 由があれば転勤を拒否できる
という例として参考になります。

 

B業務上の必要性を問う場合

  さて、これらに比べて難しいのは、“1.”において業務上の必要性の有無を問う場合です。
 今回のケースで言えば、相模原の拡散プロセス系技術者が山形に異動するうえで、本当に異動の
 必要があるのか?と言ったことが該当するでしょう。これは会社側の判断によるだけに、「不要
 である」との立証が難しいと考えられます。したがって、転勤に妥当性が無いと考えられる場合
 でも、拒否すれば解雇となるケースもあることから、
一旦は転勤を受け入れたうえで争議を行
 う
と言う方法もあります。(こうした行動を勧める例が多いようです。)ただし、客観的に見て
 も問題性が多いと判断される場合には、労働組合によっては、
転勤の対象者のみ
を指名スト(
 部分スト)にする
という方法を採ることもあるようですので、職場の仲間同士で共通の見解が
 持
てるようでしたら、労組にかけあうのも手段の一つでしょう。(※7)

   とにかく今回のリストラは、先端開発のロケーションの変更、NFASの閉鎖、他社との協業
 、早期退職優遇制度など、複数の施策が混合して複雑化しています。どさくさに紛れて何が行わ
 れるかわからないので、それぞれの妥当性について逐次チェックが必要と考えます。

 リストラに関する相談は、リストラ110番までお願いいたします。

 また、労働組合員の方は、まずは組合にご相談されることをお勧めいたします。

 

◆参考になるホームページ

 

 上記文中に(※)印をつけた箇所について、参考になるホームページを紹介いたします。

 (※1)整理解雇の4要件について

  労務安全情報センターサイト内・「退職・解雇、出向の常識」:
 
http://labor.tank.jp/kaiko_etc.html

                                     本文にもどる↑

 (※2)リストラ対策ガイドhttp://pput.net/restructure.html

  出所不明のサイトですが、簡潔で見やすいので、まずは手始めにどうぞ。

                                     本文にもどる↑

 

 (※3)2002129日「しんぶん赤旗」http://www.mmjp.or.jp/jcp-ozawa/new_page_151.htm

  転籍と絡めたリストラについて解説しています。

  また、最高裁が退職勧奨で限度を越えた不法行為と判断した基準など、退職勧奨を跳ね返す知  恵が載っています。

                                     本文にもどる↑

 

 (※4)自由法曹団(JLAF)通信1108 ボッシュ−ユニシアジェックスの例:
 
http://www.jlaf.jp/tsushin/2003/1108.html

  事業所の閉鎖による遠地への転籍の例として参考になります。

                                     本文にもどる↑

 

 (※5)働く女性に関する判例検索 :
 
http://www.miraikan.go.jp/hourei/case_detail.php?id=20070315202145

   明治図書出版にて、共働き夫婦の夫の配転拒否に対し配転無効とされた例。

   ( 平成14年(ヨ)21112号)

                                     本文にもどる↑

 

 (※6)働く女性に関する判例検索 :
 
http://www.miraikan.go.jp/hourei/case_detail.php?id=20070315202624

   ネスレジャパンホールディングにおいて配転命令に対する効力停止処分命令が出された例。

   (神戸地裁姫路支部―平成15年(ヨ)92号)

                                     本文にもどる↑

 

 (※7)日本労働弁護団編 『労働相談実践マニュアル』 :
http://park17.wakwak.com/~ntt/shiryo/box/020508kenri.htm

   配転について詳しい記述あり。

                                     本文にもどる↑

 

 

◆付記 ・・・ NFAS閉鎖の捉え方について

 

“倒産”ではなくグループ再編にともなう閉鎖である。

  上記の議論を展開するうえで確認しておくべき事項に、NFASとNECエレクトロニクスの
関係があります。と言いますのは、NFASは今から約3年半前までNECエレクトロニクスの
 一部門(ULSIデバイス開発研究所)でした。これをNFASと言う別会社として分離独立
 させるに及び、果たして単独で運営して行けるだけの業務量があるかどうかなど、分社当時の
 段階から大きな疑問が寄せられていました。つまり設立のときから多少無理があったと言えます。今回の試作ラインの閉鎖も、当時から予見されていた事態の一つではなかったかと想像し
 ます。

 

  加えて、分社後もNFASの事業がNECエレクトロニクスグループ全体の事業と不可分のも
 のであったこと、および今回のNFASの閉鎖がNFAS社単独での経営状態の悪化が原因と言
 うよりも、NECエレクトロニクスグループ全体の再編に絡むものであること、そしてNFAS
 がNECエレクトロニクスの100%子会社であることを考慮する必要があります。つまり、N
 FASの閉鎖は、通常の企業の倒産と同列に扱うべきではなく(だからこそ「閉鎖」や「解散」
 と言う言葉が使われるのでしょう)、NECエレクトロニクスにおける一部門の閉鎖とほぼ同一
 であると捉える方が妥当であると考えます。したがって、今後のNFAS社員の雇用について
 もNECエレクトロニクスに責任がある
との前提のもと、議論を展開しております。

 

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