第3章 NECEL労組の動き |
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1.NECEL労組の始動 労組の表面的な動きが始まったのは、会社発表の翌々日の11月30日からであった。ホームページに掲載 された「EU−Info No. 2007-07」は、会社発表からわずか2日後に掲載(発行の日付は前日の29日)である にも関わらず、全9ページにおよぶ重厚な内容であり、会社の施策を他のどの資料よりも詳しく説明していた。 通常例えば労使交渉の経過報告などが、交渉日から約10日〜2週間かかって発行されていることを思うと、 異例の早さだと言える。しかも本文書の冒頭では、会社発表の直後に臨時労使協議会を開催した結果の報告 であると述べているから、わずか1日でこれだけの文書を書き上げたとすれば、執行部のトップスピードには 恐るべきものがあると言える。どうか今後ともその持てる力を遺憾なく発揮してもらいたいものである。 本文書の内容は、おおよそ次の通りだった。前半は会社側から報告のあった施策についての説明にページ を割き、後半は労組側の質問に対する会社側の回答、そして最終ページで労組の「基本スタンス」を述べてい る。特に最後の基本スタンスは、とても重要な部分でありながら何が書いてあるのか解りにくいというのが私の 感想である。そこで、この解りにくい文書の中で、組合の取り組む姿勢に関する部分を私なりに要約すると、次 のようになる。 「2007年2月にNECELが発表した会社再生のための施策を確実なものとするため、 労組は会社に対し、積み残しとなっていた経営課題に対する抜本策を明確にするよう 要請してきた。その結果、11月28日に会社から、組織の再編成と早期退職優遇制度 と言う形で回答が示された。この様な具体的な方針が示されたことは、労組の要請に 応えたものであるから評価する。だが、今回の施策は退職や他社への移籍を前提に したものであるから、組合員の雇用や生活基盤に大きな影響を及ぼすことになる。 だからタダでは受けられない。そこで、経営トップには、再生と成長を実現する強い決 意と覚悟と行動を求める。経営トップが再生のための改革をやり遂げるのであれば、 労組としてはその過程において組合員の退職や他社への移籍があったとしても認める。 ただし、組合員の雇用は、NECELグループ外への再就職と言う形も含めて守られる事 が大前提である。また、早期退職優遇制度については希望者のみが利用することが 前提である。」 この期に及んで「経営改革をやり抜かない」と言うトップが居るわけはないから、この労使協議で組合側が会 社に突きつけた要件(会社の再生と成長を実現する強い決意と覚悟と行動)は、実質的に意味のあるものとは 思えない。また、会社側にとって経営改革をやり抜く事の中には、人員削減をやり抜く事も含まれていると解釈 すべきだろう。したがって、労組執行部としては人員削減をやり抜くことについても容認しているように見える。 (容認したと言うより要求したと言うべきか?)NECグループ外への再就職を前提にした「再就職支援サービ ス」について、特に反対の意志表示をしていないところにも注目したい。 2.第23回職場代表委員会 次の週の月曜日、12月3日に第23回職場代表委員会が開催されている。議事録によれば、労組執行部が これから会社と協議していくスタンスとして、次の3点が挙げられている。 @UC棟・NFASに関わる組合員の雇用を第一に守ること。 A早期退職優遇制度の利用はあくまでも本人希望であること。 B一連の経営施策について、現場組合員の目線できちんと検証しチェックすること。 この言葉を額面どおりに解釈する限り、労組の方針としてはまず妥当な線ではないだろうか。議事録には、 この委員会で行われたグループディスカッションによる意見も報告されている。代議員たちの提起した「現場 組合員の目線」による疑問点には見るべきものがある。いくつか例をあげる。 1)先端デバイス開発部門では、勤務地異動が伴う施策によりモチベーションが低下している。 若手社員も含め退職者が増えるのではないか。 2)早期退職優遇制度は本当に必要な施策なのか。残った従業員の業務負荷が高まるのではないか。 3)40歳以上のベテランが退職することで、若い技術者への伝承ができなくなり、技術力低下を 招くのではないか。 4)2001年度に実施した特別転進支援施策時の面談等、行われるのではないかと危惧する。 5)今後自分がどうなるか判らない状況では早期退職優遇制度を使うか否かの判断がしがたい。 具体的なことが分かってから施策を実施すれば良いのではないか。 6)人事施策で多数の従業員が辞めたら、現在の試作ラインを維持できなくなるのではないか。 果たしてこれらの疑問は、この後どのように執行部のチェックに生かされていっただろうか。 3.一般組合員からの問題提起 第23回職場代表委員会のあと、12月上旬から1月上旬までの約1ヶ月間に、今度は一般の組合員を対象 にした職場会が各地で開催された。これら職場会で出た質疑と執行部の回答についても、組合ホームページ に掲載されている。やはりここでも「現場組合員の目線」による非常に良い質問がいくつも出ているのが判る。 いくつか例をあげる。 1)2001年のNECの特別転進支援制度のあと、同様の施策は絶対にやらせないと組合は宣言 したはずである。 2)このような施策を展開せざるを得なくなったのは経営の失敗であり、組合は経営責任を追及すべき。 3)実際の運用面で誤りがないための組合のリスク管理はどうなっているか。 4)職場は極めて繁忙である。残った社員の負担が益々大きくなるのではないか。 いずれも極めて全うな質問ばかりである。これら質問事項に対し、執行部側が何と回答したかも重要である が、それ以上に重要なのは結局どうなったのか?である。早期退職優遇制度については、NEC&関連労働 者ネットワークとしても「面接アンケート」を実施した。その結果なども踏まえて、制度が適正に運用されたのか どうかを後の章で検証してみたいと思う。 なお、執行部からは年明け早々に、早期退職優遇制度を受け入れる旨の電子メールが、全組合員に対して 発信された。 4.第24回職場代表委員会 第24回職場代表委員会は1月15日(火)に開催されている。議題は早期退職優遇制度を受け入れるかどう かである。この様な重要な決定を、執行部の独断で決めるのではなく、代議員の議決に委ねるのだから、労働 組合には民主的なプロセスが息づいているものと期待したい。しかし、執行部からは委員会の数日前に、全組 合員に対し”早期退職優遇制度を受け入れることを決めた”と言う内容の電子メールが発信されていた。あれ は一体何だったのであろうか。 この委員会の議事録で特徴的なのが、委員長の挨拶文である。それによると、今回の早期退職優遇制度が ELグループ全体の取り組みであり、生産分身会社の労組ではすでに受け入れを決めているとされている。 そしてその上で、ELグループのリーダーであるEL労組がどう対応すべきかを議論して欲しいと訴えている。 それまで組合の発行してきた資料を見ると、制度の適用範囲がNECELとNFASの2社であるかのような記述 が見えていた。したがって、グループの他の会社も対象であること、EL労組にはリーダーとしての役割が期待 されていることなど、一体どのくらいの人が理解していただろうか。また、もしEL労組にリーダーとしての責任があるのならば、本当は他のグループ企業と連携を密にして、彼らが制度を導入する以前に、EL労組として の対応を明確にしておくべきでは無かったのだろうか。 なお採決の結果、賛成31名、反対9名にて、11月末の会社提案そのままの形でこの議案は可決された。 しかし一見賛成が圧倒的に多数に見えるが、普段はほとんど反対者の出ないこの委員会で、反対が9票も 入っているのは初めて見たように思う。これについては異例の事であったと言うべきでは無いだろうか。 5.1月11日付けの2通の文書 第24回職場代表委員会の開催に先立ち、1月11日(金)付けで2通の文書が組合から発行されている。 ひとつは「先端プロセス開発体制の検討状況について(EU-Info No.2007-09)」、もうひとつは「NFAS集約時 の対応の方向性について(EU-Info No.2007-10)」である。いずれも労使協議会の議事録ではないが、会社 との質疑応答という体裁を採っている。この質疑応答がどのようなプロセスで実行されたのかは不明である。 先端デバイス開発体制について言えば、今回多くの人が山形(鶴岡市)行きを想定されており、該当部門と経営陣(役員や事業部長クラス含む)との間で開催された懇談会の席でも、遠地への転勤を心配する声が 社員から上がっている。これに対しある役員は、つくば研究所発足時のことを例に取り、山形から戻れない 可能性を示唆したり、そのうえで「技術者は自分の仕事が出来る良い環境にいるのが一番ハッピーだと思 う。」といった独善的で乱暴な発言をしていた模様だ。技術者としての属性が全人格を占めるような人であれ ば、この役員の言うとおりかも知れない。しかし家族のある人はまず100%そうでは無いだろう。しかし、そう した個人の悩みや苦しみを背景にした質疑応答は、このEU-Infoを読む限りどこにも書かれていない。ただ 会社側の施策に対する確認で終わっている。 一方、「EU-Info No.2007-10」では、会社側が新しい施策を提起してきたと報じていた。2008年の年末に NFAS限定で「特別転進支援制度」を実施すると言うのである。今度の対象者は20代も含めた全員で、退職 金の割増月数は今回の早期退職優遇制度よりも5ヶ月ほど少なくなっている。この会社側の提案に対し、組 合執行部は「職場の要望に応えたものとして評価すべき」と位置づけている。 もう一点、この文書で見逃せない記述がある。「早期退職優遇制度の加算月数は労使協議の折衝の経緯 を踏まえて提示された水準」と記されているのである。確かこの制度の提案は、11月28日に会社側から突 然なされたはずだが、そうではなかったと言うことか。しかも労使協議の折衝を通じて獲得したと言う加算月 数が、2001年のときと全く同じであるのは何故だろうか。会社発表以前に水面下で行われていたらしい労使 協議の事実も内容も、組合員には一切開示されていない。 6.ヘルプライン開設 早期退職優遇制度が始まった1月16日(水)以降、組合執行部から「ヘルプライン」開設を通知する電子メ ールが発信された。宛て先は、制度の適用対象となる40歳以上の組合員全員である。その通知文中には ”退職を強要するような運用が行われることは一切ない”、”個別ヒアリングは、制度主旨の説明と制度利用の 意思確認の2回である”、”本人の意志に反し3回以上ヒアリングが行われる事は無い”と言った内容が明記さ れていた。組合として、この制度に対する立場をかなり鮮明にしたと言える。 このヘルプラインの利用状況に関する報告は、2月12日に開催された第25回職場代表委員会の議事録の 中にかろうじて見られる。それによると、当日までの利用者は8名だったとの事である。「組合として直接現場 に介入しなければならないケースは発生しておらず、労使の取り決めに則った運用がなされているものと判断 している」との表現が見られる。 7.第10回NECエレクトロニクス労使協議会 2月5日(火)には労使協議会が開催されており、その議事は「EU-Info
No.2007-13」にて報告されている。 本文書の2ページ目には、高沢委員長の挨拶文が載っている。その中で委員長は「直接の対象部門はもち ろんそれ以外の部門に対しても不安感の増大につながっている」「早期退職優遇制度を実施することによる 人心への影響は大」との状況報告をしている。そして、「これらの不安を払拭するためにも、これまでに示され た効率化を推進する施策を着実に実行して結果に結びつけることと、今後の成長戦略についても具体策を 示した上できちんとやりぬいて結果を出すことが不可欠」と論じている。要するに、会社がリストラをやり抜く ことが肝要であり、そうすれば職場の不安も払拭できるとの見解を示していると言える。 8.組合のメルマガ 労組は、数年前から門前でのビラまきを廃止している。したがって、一般の組合員に対する積極的な情報 発信という意味では、電子メールによるメールマガジンが、ほぼ唯一の手段となっている。(定期刊行物として は「CANVAS」と言う雑誌があるが、こちらは組合活動とは関係の無い情報誌である。) そのメールマガジンがどのような内容であったか、会社発表のあった11月末から3月末までの記事を分類 してみた。すると、計95件の記事の内イベント紹介関係が約1/3を占めていることがわかった。次いで多い のが保険・ろうきん関係で全体の2割強である。一方でリストラ関係は6%、春闘関係はわずか4%であった。 重要な情報は自らホームページにアクセスしない限り気が付かないとすると、果たして組合員の何%がリスト ラの展開状況について十分な情報を得ていただろうかと思う。 |
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