疲弊する職場 NECは今  No.8

長時間労働(上)  トイレで死んだ派遣社員             2005.1.17
 

 男性の派遣社員=当時(26)=が職場のトイレ内で死亡していたのが発見されたのは、二〇〇三年十二月の
こと。「病死」として処理されましたが、死因など真相は明らかではありません。
 亡くなった派遣社員を知る男性社員は「彼だけでなく派遣社員はNEC社員以上に遅くまで働いている。過労死なのではないかと思っています」と話します。

 この派遣社員は、ソリューション事業のプロジェクトの一員でした。リストラで正社員は減少し、派遣社員がソフトのシステム構築の主力部隊になっています。
 「プロジェクトのトラブルがいったん発生すると、一、二カ月もかかりっきりになります。マネジャークラスも現場で張りつきになります。納期が遅れると、とくに管理職の責任がきびしく問われ、減俸も覚悟しなければなりません。事業部長は交代させられます」と同男性社員。

 彼だけではない

 亡くなった派遣社員が働いていた職場は、東京・港区のNEC本社ビル周辺に集中するNEC関連ビル内にあります。

 ある日の夕刻、そのビルを訪ねました。「人によって違いますが、夜十時、十一時まで働く人が多いです。まあ、労働環境はよくないです」と話してくれたのは、入社二年目の男性社員です。

 三々五々に退勤が始まったのは大体夜八時前後から。入れ代わるように午後九時以降に顧客先から社員が次々と戻ってきました。「まだ、仕事ですか?」とたずねると、誰も無言まま社内に入っていきました。

 先の男性社員のいう通り、夜十時、十一時ごろに退勤する社員が最も集中していました。

 夜十一時ともなると、本社ビルの周辺は三十台近い客待ちタクシーが長蛇の列。「毎日のようにこの場所に来ている」という運転手によると、こうした光景は午前二、三時まで続きます。
 「これでも利用者は以前と比べれば減りました。経費削減で遠距離の人はなるべく電車で帰るようにしているようです。NECさんの要望でマージンを減らされ、商売にならないです」
と運転手はこぼします。

 帰り際、もう一度、明かりがこうこうと照るビルを見上げました。腕時計は夜十一時四十分を指していました。

 労働時間に関する労使協定は一体どうなっているのでしょうか。

 時間外労働は「三カ月百二十時間、年間三百六十時間」以内が原則となっています。ところが特別の事情が生じた場合、「三カ月三百六十時間、年間千時間」まで延長することを認めています。これは、業務と脳・心臓疾患の発症との関連性が強いと判断される過労死認定基準の月八十時間を超えています。

 際限のない競争

 労使協定のいう特別の事情とは、緊急かつ臨時的な業務と認められるもので、開発・設計・検査、システム分析・プログラミング、予算・事業計画・決算・税務など主要な業務のほとんどが網羅されています。

 「社員も派遣社員も際限のない競争に巻き込まれ、死ぬ思いでがんばっています。それでも会社はもっと
がんばれ、もうけを上げろ、と要求してきます。社員OBの平均寿命は六十八歳くらいだといわれていますが、社員の置かれている現状を如実に物語っています」と男性社員はいいます。

                                                             (つづく)
 

 
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