疲弊する職場 NECは今  No.9

長時間労働(下)  サービス残業告発の一石             2005.1.18
 

 「このままでは倒れてしまう。家庭生活も成り立たない」。玉川事業場(川崎市)の品質管理部門で働く四十代の男性社員は昨年一月、未払い残業の支払いと長時間労働の是正を求めて、川崎北労働基準監督署に
申告書を出しました。

 勤務実態の記録

 「仕事を終えて会社を出るのは、たいてい夜十時から午前零時半の間です。夜十時前に帰ると、仕事をしていないと見られますから」
 申告を決意したのは、その一カ月前の二〇〇三年十二月。一緒に働いていた関連会社の四十代の社員の過労死がきっかけでした。その社員とは「お互いに体には気をつけよう」と、励まし合っていた間柄。脳出血でした。徹夜作業中に倒れ、朝一番に出勤してきた人に発見されました。

 「彼は毎月百五十時間くらい残業していました。私も徹夜し、三十六時間連続勤務することもあります。長時間労働の怖さを知りました」

 男性社員は、三年ほど前から慢性的な疲労感に襲われ、それがきっかけで二〇〇二年二月から出退勤時刻を欠かさず手帳に付け始めました。自分が倒れたときのことを想定し、家族に勤務実態の記録を残しておこうと考えてのことです。

 八年前にも、過労が原因で帰宅途中に呼吸困難に陥り、深夜、救急病院に駆け込んだことがあります。十二指腸かいようで入院したとき、上司から「退院したその日から徹夜ができないなら、来なくていい」といわれ、退院を一週間延ばしたこともありました。

 ただ働きまん延

 NECではサービス残業(ただ働き)がまん延しています。主任クラスを対象に七年前に導入された擬似裁量労働制「Vワーク」が発端です。時間外労働に応じて支払う残業手当に代わり、適用者には一律に一日一時間相当の手当を支給することに変わりました。手当分を上回る残業が恒常化しているなか、必然的にサービス残業は野放し状態となりました。

 手当分を超過する残業をした場合、超過申請すると超過分の残業代が支給されます。しかし、「残業するのは能力がないから」と見られる風潮が強く、申請者はほとんどいません。三回申請すると自動的にVワーク適用者からはずれ、個人業績の評価が最低ランクとなり、一時金は数十万円の減額になります。

 NECは二〇〇二年十月に、社員の告発で労基署の是正指導を受け、本社・田町地区の社員百人余に対し
て、四千五百万円の未払い残業代が支払われた経緯があります。直後に、Vワークから法的な裁量労働制「
新Vワーク」に移行しました。しかし、実態は何も変わっていません。

 「長時間労働が改善されないままに裁量労働制が導入され、当然のごとく現在に至るまでサービス残業が続いています。裁量労働制の適用者はたとえ徹夜して働いてもその分はただ働きです。人権をも無視するような働かせ方に憤りを感じます。この数年、職場では何人もの同僚が精神疾患にかかっています。自殺未遂者もいます。申告し、一石を投じたい」と男性社員は話します。

 新Vワークの適用者は七千人にのぼります。

                                                             (つづく)

     ◇

 裁量労働制:あらかじめ
労使が決めた労働時間を働
いたとみなす制度。実際に
労働者がそれ以上に何時間
働いても、企業は不払い残
業で摘発されなくてすみま
す。八時間労働制を根本か
ら崩すもので、長時間労働
、サービス残業(ただ働き
)の温床になっています。

 
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